残したい情景~文化的歴史的所産を巡る~ 第10回 神奈川県清川村 一般財団法人 日本不動産研究所 自然を生かした山岳マラソンコース 人の手が必要な価値保存
住宅新報 2019年7月9日 号 12面
06年アナン元国連事務総長が国連責任投資原則を掲げて13年経過し、ようやく日本でもESGやSDGsがメディアで頻繁に取り上げられるようになった。しかし、環境・社会・企業統治に配慮する経済活動という考え方は、第一次世界大戦よりも前の1913年に、渋沢栄一翁が、「論語と算盤」で既に義理合一論を唱えている。当研究所も、11年4月に日本政策投資銀行(DBJ)が創設したDBJ Green Building認証(環境・社会への配慮がなされた不動産を支援するための制度)を支援し、道徳と功利を両立させている。
宇宙船地球号の乗組員は、不動産という限られた資源を自然と共生しながら経済・社会を営む努力を続けている。近年、Jリートを運営する資産運用会社は、節水節電に研鑽努力するだけでなくテナントへ環境・社会に優しい行動を働きかけることで、不動産の事業収益を改善させる挑戦を始めた。ESG投資は、一般に非財務要因で金銭的な定量化が困難といわれる。確かに対象不動産の周辺にある都市公園や街路の清掃に協力することやメガ物流施設に荷物を搬入搬出するトラッカーにアイドリングストップの協力を要請することが不動産事業の収益に直接プラスの効果があることを証明することは難しい。しかし、先ず隗より始めよ。不動産が地域に貢献するかどうかは、人の行動次第である。環境に優しい活動が周辺住民に知れ渡り、当該地域の雇用が増えれば人手不足は解消するかもしれない。その結果、当該不動産へのテナント需要が高まることになれば、物流賃貸事業が期待しうる収益を上げるようになるかもしれない。最近では、圏央道が走る厚木・愛川・相模原エリアのメガ物流の立地需要は加熱している。
厚木市のお隣、清川村と相模原市緑区に跨がる宮ケ瀬湖は、重力式コンクリートダムで造られた人造湖だ。風力や地熱、太陽光等自然エネルギーを利用した発電システムに注目が集まるが、ダムによる水力発電は、歴史もあり自然と共生する人間にとって文化遺産である。水力で生まれた電気を利用することは、SDGsのNo7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の目標に繋がる。
清川村は3千人ほどが住む自然豊かな村だ。19年4月21日の東丹沢宮ケ瀬トレイルマラソン(ルートは相模原市緑区の丘陵地が多い)に参加した。自然をそのまま利用したコースは、宮ケ瀬湖に繋がる早戸川に沿った舗装された林道を順調に走り、早戸川橋、三日月橋を通過して、伝道から鹿棚沿いに急峻な山道に入る。13キロ付近で足が徐々にいうことをきかなくなり、標高1312メートルの榛ノ木丸に息絶え絶えに徒歩で到着。その後、多少上り下りを繰り返し標高1406メートルの姫次東がほぼ中間地点、ここから大平分岐・大平まで標高差700メートルを一気に駆け下る。奥野林道25キロ付近が最後の難所、松茸山を越えれば急坂を下り、いつか来た道、早戸川橋に戻って、宮ケ瀬湖畔園地まで約32.1キロの順路である。
初めて山岳マラソンに参加し、松茸山を越えたあたりのスギ林がいまだに記憶に残る。下刈り、間伐整備されたきれいな造林地は、木漏れ日が差し、美しい光景だ。山は、人が手を加えることで環境を維持できると改めて感じた。
無機質な不動産は、それだけでは価値を生まない。人が住み、ビジネスを営み、自然環境を維持する行為と共生することで、価値を保全し続けることができる。
(横浜支所/不動産鑑定士・石塚治久)

























