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スタンダード会員限定幸福論的 『住宅論』 住宅評論家 本多 信博 ◇42 仕事と住まいの関係 子供が親の働く姿を見ない弊害

住宅新報 2019年5月7日 号 11面

連載: 幸福論的「住宅論」

総合
職場と住まいが離れている現代の都会社会は当然の帰結として親子の断絶を招く

職場と住まいが離れている現代の都会社会は当然の帰結として親子の断絶を招く

 「働き方改革」が話題となっている。残業時間の制限、有給休暇の義務化、同一労働同一賃金の原則など様々な論議があるが、「なんのために働くのか」という視点が欠け落ちていないか。言うまでもなく、仕事と幸福とは密接な係わりがある。19世紀イギリスの思想家、トーマス・カーライルはこう述べている。

 「一生取り組める仕事を見出した人は幸せである。これ以上、ほかの幸福を探す必要はない」

 しかし、人生の目的が仕事をすることであると言い切れないことも確かである。人は生きていくためには働かざるを得ないというのが一般的な理解ではないだろうか。ただ、その生きていくためにせざるを得ない仕事を、人間の幸福との関係から肯定的に捉えたのがアドラーである。彼はこう考えた。

 自然界における人間は集団で狩をし、農耕に従事し、食糧を確保し、外敵から身を守りながら子どもを育ててきた。その過程で人間は〝分業〟という画期的な働き方を手に入れた。その分業という人間独特のシステムを発展させるために社会を形成した。 ただ、他者と分業(協力)するためにはその人のことを信じることが大前提となる。そこから人間にとってのすべての苦悩と同時に、すべての喜びの源泉でもある対人関係が始まった――と。

 とは言え、アドラーは労働自体を善としたわけではない。善悪にかかわらず人は働かざるを得ないし分業せざるを得ないから他者との関係を築かざるを得ない。だから人間の幸福がより広い意味でのそうした人関係の中にしかあり得ないと考えたのである。

客がいてこそ主

 人間にとっての幸福が人間関係の中にしかあり得ないとすれば、人間が幸福になるための住まいというものも、そうした視点が重要になる。 

 「住」という字は人が主(あるじ)と書くが、主は客がいてこその主であるから、客を招き入れ、客と談笑する機能をもってこそ住まいといえるのではないだろうか。

 現代の住まいは家族だけの団らんや、家族を外敵から守る機能ばかりを重視し、オープンマインドを醸成する内と外との連続性、近隣住民との交流の場づくりについては二の次になっているように思える。その証拠に日本の家屋から隣人らとの交流に適していた縁側が消えた。

 働き方改革の一環で、働く時間と場所の自由化が進めば、自宅が仕事場を兼ねるようになる人たちも増えてくる。ややオーバーな言い方をすれば、サラリーマンを〝非人間的で非効率な通勤時間〟から解放する時代がようやくやってくる。

 仕事場と住まいが直結すれば、仕事の効率が上がるだけでなく、親と子どもとの接触(交流)が増える。親子が身近にいる時間が増えれば、相互の人格に対する理解が進み、本当の意味での家族団らんが実現する。

断絶は必然

 仕事をしている親の姿を子どもが見ることは、仕事というもの、人生というものについて自然に子どもが学んでいく手助けになる。本来、人間社会というものは、住まいと仕事場が連結していてこそある種の規律を保ち得るといってもいいだろう。なぜなら、住まいと仕事場が切り離されている現代の都会社会は、当然の帰結として親子の断絶を招いている。親の働いている姿を見たことがなければ、子は親の実像を知ることはないからだ。

 住まいが仕事場を兼ねることで期待できる効能は、子どもが自分の親の働く姿を間近に見ることだけではない。私は小学生だった頃に経験したが、仲良くしていた友人の親が働く姿をその友人宅で垣間見ることで、世の中には様々な仕事があることを実感したし、同時にいかなる職業にも貴賎がないことを自然に理解したものである。

 人間社会は常に進歩しているとは限らない。人類が間違った方向に進むことがあり得ることは戦争の歴史をみれば明らかだろう。そのことは、人間の幸福の問題についてもいえるだろう。しばしばTVドラマなどで昭和初期の人間関係豊かな庶民生活が郷愁をもって描かれるのは、昔の人間関係のほうが幸福に満ちていたからではないか。

 20世紀のイギリスの美術史家、アンソニー・ブラントはこう言っている。「世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わることに変わりはない」。

(住宅新報顧問)

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