幸福論的 『住宅論』 住宅評論家 本多 信博 ◇37 住まいと脳の関係 人生で最も長い時間がそこにある
住宅新報 2019年4月2日 号 11面
連載: 幸福論的「住宅論」

住まい空間が脳に与える影響についての研究が始まっている(写真と本文は関係ありません。写真提供=平田不動産)
住まいと脳の関係についての研究が進んでいる。積水化学工業住宅カンパニーグループの住環境研究所と生涯健康脳住宅研究所はこのほど、「睡眠状況に関する実態調査」の結果を発表した。それによると、(1)睡眠に満足している人の割合は66%しかないこと(2)不満の原因は日中に眠気があるが最も多いこと(80%)(3)眠りの問題は日常生活の乱れが要因であること――などが明らかになった。
住環境研究所内に生涯健康脳住宅研究所(嘉規智織所長)が開設されたのは16年8月。東北大学加齢医学研究所、江戸川大学睡眠研究所などと連携して脳の育成・活性化と、住まいや暮らし方との関係を研究している。
具体的には、健康な脳を維持するために「睡眠」「運動」「会話」「食事(調理)」という4つの機能に注目。江戸川大学の福田一彦教授は「よい睡眠がとれるかどうかは、住宅の構造や機能によって大きく変わる。在宅時間のうち、最も長い活動が睡眠だ。住宅はこれまで覚醒中の暮らしを中心に考えられてきたが、健康維持の観点からは、睡眠に注目した住宅を開発する必要がある」と興味深い指摘をしている。
生涯健康脳住宅研は今後、睡眠だけでなく、残る3項目の会話、食事、運動を合わせた「話・食・動・眠」をコンセプトに、健康な脳と住まいとの関係性を研究していく。当然、その研究成果はセキスイハイムの新築住宅やリフォーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などに生かされる。
前出の福田教授は「今回の調査で睡眠の問題は日中の様々な心身症状と関係があること、更に睡眠や生活習慣の悩みを持っている人は睡眠を改善するサービスにも興味を持っていることが分かった。これからのハウスメーカーは暮らしのハードウェアを提供するだけでなく、健康的な生活を送るためのノウハウやそれに基づくシステムを提供する総合的なサービス企業となることが期待されている」と話す。
また、生涯健康脳住宅研の嘉規所長は「〝健康脳〟という以上、認知症予防が主な目標になっていくと思う。これまでにも高齢社会における住宅のあり方などについて研究してきたが、急速な高齢化の進展に伴い、住まいの課題の重点が〝対応から予防へ〟と変化していくのではないか」と語る。
変わる医学界
このように、住まいと健康に関する研究が注目を集めるようになった背景には医学界における2つの大きな変革がある。その一つが「治療医学から予防医学へ」という流れだ。病気を予防するためには、その発病原因を突き止める必要があるが、現代人が罹りやすい生活習慣病の〝習慣〟を生み出しているものとして、〝住まい〟が影響しているのではないかという考え方が日本の予防医学を重視する医者の間で増えてきた。
米国ではもっと進んでいて、身体の不調を訴えて病院に行くと、医者が「どこでどんな家にお住まいですか」と聞くのが常識となっているという。
日本人は家を持つと、その家に生涯居住することが多いので、生活習慣としての要素が強まる。生涯に何度も住み替える米国人以上に、住まいと生活習慣との関係に注意を向ける必要があるだろう。
医学界におけるもう一つの変革が、「西洋医学中心から統合医学へ」という流れである。統合医学とは、患部に対する対症療法的な西洋医学だけに頼るのではなく、東洋医学、更には様々な代替療法をも融合させ患者を人間的にトータルに捉えて、その人に合った最善の治療方法を考える医学のことである。病気を診るのではなく、病人を診るという考え方だ。
病人の心の問題も含め、患者を全人格的に捉えなおそうとするこうした統合医学の台頭が日本の医者に住宅や住環境に目を向けさせるきっかけになっている。ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェはこんなことを言っている。
「私たちは、人生の土台をしっかり支えている衣食住という生活にもっと真摯な眼差しを向けるべきだ。もっと考え、反省し、改良を重ね、知性と芸術的感性を生活の基本に差し向けようではないか。衣食住こそが私たちを生かし、現実にこの人生を歩ませているのだから」(漂泊者とその影) (住宅新報顧問)






















