幸福論的 『住宅論』 住宅評論家 本多 信博 ◇35 住み心地が家の本質 信頼を得てこそ建つ住まい
住宅新報 2019年3月19日 号 17面
連載: 幸福論的「住宅論」

大和屋が家づくりセミナーなど住まいに関する情報を発信する基地として熊谷駅近くに設けた「くまがや館」
15年10月に、埼玉県熊谷市で創業190年の歴史をもつ大和屋を取材したときの黒田小源治社長の言葉が今でも印象に残っている。
私が、――人口減少で今後住宅需要が減少していくといわれていることについてどう対応するのかと問うと、黒田社長は「わが社は量を追うのではなく、住まいの本質を売るように心掛けているから、質の良さを求めていけば無限の開拓が可能だ」と述べた。
質に限りなし
量を求めれば限界があるが、質の追求には限りがないという。つまり、人口減少でたとえ頭数としての需要は減少しても、質をどこまでも究めていくことで無限の需要が開拓できるという老舗店らしい潔い宣言である。
では、同社の考える住宅の本質とはなにか。同社の中心商品である「森の家」を開発した一級建築士の川久保尚氏はこう語る。
「気持ちを穏やかに、健康に暮らしていけるかどうかが家の本質だ。つまりは、住み心地という目に見えない点が最も大切である」と。
目に見えない住み心地が家の本質だとすると、我々住宅購入者はどうやって購入前に、その一番大切な住み心地を確認すればいいのだろうか。
一戸建て住宅であれば住宅展示場のモデルハウスで、マンションであればモデルルームということだろうか。モデルハウスやモデルルームは、あくまでもモデルであるから住み心地を確認することができたとしても限界がある。たとえば断熱性能一つとってみても四季を通して住んでみなければ実際の住み心地は分からないのではないか。ということであれば、購入前に求められていることは家の構造、工法、機能・性能、設備の必要性などについて、通り一遍の理解ではなく、疑問や不安があればとことん追求する貪欲なまでの知識習得である。
もちろん、家のあらゆるタイプ・構造別のすべてにわたって精通することは不可能だから、一つ二つに候補を絞り込むのは自らの感性に頼るしかない。そして、肝心要の「心地よさとは何か」の研究も欠かせない。
心地よさには断熱性能などによって左右される身体的感覚もあれば、そこに身をおくだけで昼間のストレスが溶けて消えていくような精神的安らぎもあるからである。
知識習得の場
このような住まいに関する知識習得の場を企業も業界団体も、もっと積極的に真摯に開催し、いわゆる「消費者教育」を強化していくことが大事ではないか。日本はツーバイフォー工法が主流となっているアメリカやカナダなどと違い、様々な工法が併存しているからだ。
自社商品による契約獲得や、ある工法への誘導を裏に隠したようなセミナーではなく、専門家が客観的事実と中立的立場からのみ情報を発信する場を増やしていかなければ、国民が住宅取得後も永く幸せに暮らしていくことができる家を取得するのは難しいのではないか。
もう一つの重要問題は、家の本質と価格との関係である。ある調査によれば、日本人が新築ではなく中古住宅を購入する最大の理由は「価格の安さ」である。しかし、価格差を優先しすぎると住宅選びは失敗する。
一般国民にとって、新築も含めて価格が住宅購入の最終判断基準になるのはやむを得ないとしても、その価格が住宅の本質を示す値になっているかどうかのチェックを怠ることは危険である。とはいえ、その検証は一般的な住宅に関する知識の習得以上に困難な課題だ。では、そこにどんな解(こたえ)があるのか。 前出の大和屋社長の黒田小源治氏はこう言った。
「わが社は量的拡大を求めないから営業はしない。営業をすればそのコストが商品に転嫁され、住宅の本質とは関係なく顧客の負担になる。住まいの本質を売るということは建てた後のローン返済負担も含めて、顧客が本当に幸せになるための家づくりをしていくということだ。そういう仕事をしていれば口コミで自然に注文が増えてくる」
同社は1824(文政7)年創業の材木商がルーツで、武州の忍(おし)城に出入りを許された御用商人だった。 「信用と信頼こそが商売繁盛の源泉」という江戸時代に確立された商人道を今に伝えている。 (住宅新報顧問)






















