最近、街を歩いていて、ある現場で目にしたのですが、現場ユニットハウスの壁面に「段取り八分・仕上げ二分」というスローガンが大書してありました。一緒にいた若いIT系編集者に「読めますか」かと聞いたところ「段取りはっぷん・仕上げにふん」と返ってきました。意味を聞くと「仕上げよりも段取りに時間をかけるという意味ですかね、逆のような気がしますが…」という返事でした。
これは「分」を時間の単位と理解したことに誤りがあります。正しい読み方は「段取りはちぶ・仕上げにぶ」で「分」は全体に占める割合を示しています。「九分(くぶ)通り出来上がった」というときの意味は「90%出来上がった」と同じように「段取り八分・仕上げ二分」は「工事は段取りが80%・仕上げが20%」、すなわち工事における段取りの重要性を訴えるスローガンです。建築工事では「手戻り・直し」は作業効率を大きく阻害するため、綿密な段取りの設定は欠かせません。一つの工程に手戻りや直しが発生すると、以降の工程が滞留してしまい、滞留する部位によっては工事全体の遅延にもつながりかねないからです。
「段取り八分・仕上げ二分」は他の分野にも通じる含蓄のある諺(ことわざ)で、江戸時代から言われて来たと考えられますが、今回は久しぶりにこうした建築関係の諺について取り上げてみます。
板材に釘を打ち込んだときには、材の裏側に突き抜けた釘を叩いてカギ状に折り曲げます。これを「釘の裏を返す」といいます。釘の尖った先端がそのままなのは抜けやすいので、これを折り曲げて抜けにくくすることから転じて「釘の裏を返す」とは「念には念を入れる」という意味で使われます。
「軒先き貸して母屋を取られる」は今でもよく使われます。大店の軒先を小商いの露店のような店子が借り受け、当初は通いで商売をしていたのがいつの間にか住み着くようになり、大店の使用人なども手なづけ、勝手に使用面積も広げて、自分の店のような顔をして商売をしている様子を表した諺です。現代でも賃貸借契約では発生しがちなケースではないでしょうか。
清貧の思想も
「起きて半畳、寝て一畳」は読書や思索を巡らすには畳半分の半畳あればよいし、寝るときには畳一枚あれば十分という、日本文化の根底を流れる清貧の思想を言い表しているともいえます。一時流行した最小限住宅や狭小敷地住宅もこうした考え方が支えているワケです。また「千畳敷に寝ても畳一枚」という諺もモノは必要な量があれば十分という、無駄を排する考え方です。
建築関係の諺は生活に根ざしたものが多く、奥が深いのが特徴です。しかし、難しい言い回しが多く、やがて忘れ去られるものかもしれません。
(建築家・中村義平二)























