進む「不動産テック」 ビッグデータ、人工知能で新サービス 技術改革、市場に変化迫る
住宅新報 2016年8月9日 号 1面
JARECOシンポ
6月に開かれた日米不動産協力機構(JARECO、代表理事・中川雅之日本大学教授)主催による「テクノロジーは近未来の不動産業に何をもたらすか?」をテーマにした記念シンポジウムに大勢の業界関係者が参加し、関心の高さをうかがわせた。
業界最先端を行く事例紹介では、不動産業のテクノロジー化をけん引する4人の実務家が登場。不動産査定エンジンを開発し、運営に乗り出したリブセンスの芳賀一生氏、スマートロックロボット「AKERUN」を主軸にIoT事業を拡大しているフォトシンスの河瀬航大代表、世界で電子サインを手掛ける企業グループであるドキュサイン・ジャパンの小枝逸人代表、不動産情報サービスのネクストの伊東祐二氏により国内の不動産市場で進むテクノロジー化の最新事例が披露された。
中川代表はこれに先立ち、「IT技術が日本の不動産市場にどのような影響を及ぼしていくのかを探るシンポジウムとなる。著書『国家はなぜ衰退するのか』では、テクノロジー化やグローバル化を受け入れられなかったことが国家衰退の要因だと指摘されている。既存の体制や、やり方の変更を受け入れられない国家やグループが長くは続かないことを示したものだ。不動産ビジネスが変化の先頭に立てるように引き続き研究に努めていく」と挨拶した。
JARECOでは今期、リアルエステートテック研究会に新たに設けた不動産情報システム研究会とブロックチェーン研究会を通じて、世界的な先進事例や、システム・サービス間での連携、共通IDなどの研究に注力していく。
米国、価格推定で
日本不動産カウンセラー協会が6月に開いた「進化する不動産ITと未来」をテーマにした講演会。不動産鑑定士、不動産カウンセラーを中心にした不動産業界関係者が熱心な眼差しで、米国事情に詳しい日経BP社の本間純氏と、イタンジ代表取締役の伊藤嘉盛氏の講演やトークに聞き入っていた。ITとAIの進化で将来消滅する職業の一つに不動産仲介業が挙げられ、鑑定業も無縁でないからだ。
本間氏は、米国の不動産テック活用事例として価格推定サービスを紹介した。取引事例を基に住宅街の1軒1軒に推定価格を表記し、「あなたの家は今いくら。売り時です」と知らせ、反応に合わせたサービスを提供するもの。広告会社、不動産会社などが価格推定を軸にした各種サービス事業を展開しているという。取引価格が分かり、データ集積がある米国ならではのサービスだ。IT化によって顧客獲得は情報提供によるものから次の段階、提案・コンサル営業に進みつつある。
AIの活用では、イタンジは賃貸物件情報の問い合わせに音声対応するシステムを稼働しているほか、賃料データの集積と収益予測での取り組みも始めた。AIを支援ツールとした仲介、鑑定業が誕生する日もそう遠くない。
首都圏で「参考価格」
不動産業を支援する立場から不動産テックを推進しているのがネクスト。井上高志社長は「情報の網羅性」「価格の可視化」「不動産業務の効率化」を業界変革のキーワードに取り組んでいる。
運営する情報サイト「HOME'S」の物件数は698万件を超え、網羅率を60%としたほか、価格の可視化では既に首都圏16万棟、150万戸のマンションの売買参考価格と参考賃料を同時表示して〝まるみえ〟にした。このほか、建物性能評価の可視化、不動産会社評価の可視化も現在、進行中だ。
ユーザー向けサービスと事業者向けサービス(業務支援)をマッチングさせる機能を担うのが情報サイトと位置付け、双方に寄り添うサービスを戦略的に構築する態勢を取る。井上社長は「不動産テックは上手に使いこなすことが大事。我々の目標はITを使って収益を伸ばす会員が増えること」という。
ハウスコム 賃貸不動産探し AIチャット導入
不動産賃貸仲介大手のハウスコムはこのほど、同社が提供しているチャットサービス「マイボックス」に人工知能(AI)「コムるくん」を導入した。部屋を探している顧客が興味をもった物件をあらかじめ登録し、チャットで質問すると即座に回答する。間取りや設備といった物件情報に関する質問だけでなく、物件の相談やリクエストについて一次受け付けも行える。
「マイボックス」は同社が今年2月から提供を始めたチャットサービス。個人ごとにWeb上の専用連絡ボックスを設け、ボックス内でチャットやメールでの連絡、物件情報の記録、Web予約などができる仕組み。今回AIを常駐させることで、同社の営業時間内外を問わず、顧客の質問にすぐに自動回答できるようになった。
同社では、既に物件検索サービスについては、ディープラーニングを取り入れた人工知能を用いており、最寄り駅から部屋の広さ、家賃などを入力すると、物件を複数紹介する。検索を重ねるにつれて精度が向上するのがディープラーニングの特徴だ。今回のAIチャットは人工知能活用の第2弾となる。
手書きをデータ化 AI使って読み込み
不動産に限らずどの業界でもまだまだ手書き書類は多いもの。AIinsideマーケティング(東京都新宿区、永田純一郎社長)は、申込書やアンケート用紙といった膨大な手書き書類を、AIを使って読み込み、デジタルデータ化するサービスを始めた。読み取る精度は99.89%という。
ファクスやカメラ、スキャナなど一般的な機器を使って手書き文書を画像化すると、自動でエクセルやテキストファイル、CSVなどの形式にデータ化される。従来のように人が文字を判読しながら時間をかけて入力する必要がない。永田社長は、「業務効率化に加え、デジタル化されると、顧客分析やマーケティングなどにも活用できる。そこに価値がある」と話す。
パソコンやスマートフォンの普及で手書きの機会は減っているが、「集計の作業効率を上げるため、セミナー参加者にタブレット端末を渡してアンケートを行ったところ、手書き時と比べてフリーコメントが減ったという声もある。手書きならではのメリットは多い」(永田社長)。
現在、不動産会社からは、物件概要書や受け渡し確認票の読み取り目的で、サービス導入の引き合いがあるという。
少子高齢時代を迎え、働き手の確保が大きな課題となる。AIは有用な手段になりそうだ。
予想価格も簡易査定 プロパティエージェント
投資用マンション販売のプロパティエージェントは、現在・未来の相場が分かる不動産情報サービス「ふじたろう」を展開中だ。
人工知能・ビッグデータ技術に基づき、中古マンションの相場・売買情報を提供するもの。現在の相場価格、1年後の予想価格、賃貸相場価格、表面利回りなどを簡易査定する。16年3月現在で全国約13万件のマンション相場情報を検索できる。中国人投資家からの反響が高いことから、このほど中国言版iosアプリを開発するなどしている。
7月15日に東京ミッドタウンで開かれた「GMIC東京2016」のパネルディスカッションに、プロパティエージェントの中西聖社長が登壇。「ビッグデータとAIを使った不動産のインバウンド構想」について講演した。
価格予測サービス おたに、公示地価から推定
不動産価格予測サービス「ジーオ」を手掛ける、おたに(横浜市、小谷祐一朗社長)。同社は7月から、推定公示地価サービスを始めた。パソコン上で地図をクリックすると、公示地価をベースにした推定地価が表示される。算出できる地点数は全国約5800万カ所。
ディベロッパーや金融機関が仕入れや担保評価を行う際の利用を見込む。市場価格からこの推定地価を引くことで建物価格を算出することも可能となる。これまで価格算定に要していた時間や人材を、他の業務に振り向けることができる。
16年1月の公示地価から算出したこの推定公示地価の統計指標による精度は92%という。
ドローン業界活用を模索
無人小型飛行機ドローンの貸し出しや、操縦士養成などを行っているトラスト(東京・日本橋)の小野祐紀香社長は、ドローンの不動産業界での活用について、こう語る。「全くの未知数だが、可能性は無限大」。現時点では、物件(住宅、ビルなど)の空撮による周辺環境の把握、タワーマンションのモデルルームで上層階からの眺望を体験するなどのアイデアが出ている。遠隔地にある住宅を空から撮影したあと、IoT技術で玄関の鍵を開け、室内にドローンを入れて、間取りや設備など建物の中を見ることも可能だという。
インスペクションにも活用できるだろう。足場を組まなければ届かない高い所の劣化状況などを見ることもできる。ドローンは地上150メートル程まで上昇できるので、高層マンションなどの診断にも使えそうだ。
課題は費用対効果である。ドローンを操縦するには免許が必要で、その取得には費用がかかる。そのため、通常はそうしたスタッフを抱える会社に委託することになる。その場合には万一、事故が起きた場合の損害賠償負担ルールなども契約で明確にしておく必要があるだろう。
現在、住宅分野で最も積極的に導入を図っているのが警備会社である。不審者が敷地や住宅内に侵入した場合に緊急に駆けつける役割をドローンが担う。警備員が車で駆けつけるよりも早く現地に到着できる。空からカメラで監視されているということであれば、抑止力にもなるはずだ。近未来的には、高齢者住宅での活用も考えられる。高齢者の外出時の見守りや、認知症患者が徘徊で行方が分からなくなった場合の探索などである。
小野社長は「ドローンは積載能力もある〝空飛ぶスマホ〟と考えれば理解しやすい。携帯やスマホで私たちの生活が一変したように、ドローン社会の未来を今から想像することは難しい」と語っている。



























