「インスペクション」普及へ 中小事業者に機運高まる
住宅新報 2016年7月5日 号 1面

中古住宅流通活性化の鍵を握るインスペクション
インスペクションの更なる拡大のためには、地域の不動産会社への普及は欠かせない。アットホームは、住宅瑕疵担保責任保険法人住宅あんしん保証と提携し「中古住宅瑕疵保証・保険サービス」を提供しているが、同保険法人による建物検査(インスペクション)の実施が条件だ。15年4月から「個人間売買型」、9月から「宅建業者売主型」を商品化。インスペクションの実施件数と保証契約件数ともに、今年に入ってからの月平均が昨年4~12月の約2倍となっている。全国各地で行ってきた説明会がこのほど一巡し、今後の更なる利用拡大が期待できる状態だという。
売主から多く依頼
ERAは1年前から、調査内容により3種類のインスペクションプランを提供している。現在約100件の契約があり、4分の3は売主からの申し込みだ。加盟店が物件の受託時に、売主に対してインスペクションの実施を奨励しているためだ。瑕疵が発見された場合には修繕するケースのほか、「瑕疵があったことを伝えるだけでも効果がある。その内容や修繕計画を確認した上で、買主の購入判断の材料になる」とERA担当者は語る。
インスペクションを実施した物件については、1カ月程度で成約できるケースが多いため、通常物件のインスペクションを実施しないケースよりもスピード感を持った売却活動が期待できるようだ。
なお、地方の数百万円クラスの物件でも、インスペクションの依頼がきているといった特徴がある。全体としては、特に今年の1月以降、インスペクションに対する問い合わせが多くなっているという。
インスペクションを導入したことで成功した事例などを中心に、今後も継続してインスペクションの内容について周知徹底していきたいとしている。
「癒着」防止策なども
日本ホームインスペクターズ協会の長嶋修理事長は、次のようにコメントしている。「宅建業法改正により、インスペクションが重要事項説明の項目になり宅建士が説明するというのは、絶大なアナウンス効果がある。ただ、先行している英米などでは、不動産業者とインスペクターとの癒着という社会問題がある。診断書のうち『この表現を削ってほしい』という不動産業者の指示をインスペクターが断れない、下請けと元請けの関係になってしまう。3人くらいのリストを提示するようにすることで防止している米国の例なども参考にしていきたい」
「国交省は、宅建業法に規定する法定義務となる業務については建築士を担い手と考えている。ただ、建築士ではない人がインスペクションをやってはいけないとは規定されていない。宅建士の法定義務として説明・実施されるものに限ってということだ。同省はインスペクションガイドラインを13年に公表したが、このガイドラインに沿う限り、建築士以外のインスペクターの活躍の場は途切れない。エンドユーザーから依頼があれば業務は実施できる。当協会の公認ホームインスペクターは1000人を超えた。現在、損保とインスペクションの見落としに係る保険を付保できないか検討している。安心してホームインスペクターがインスペクションに臨める体制をつくることで、消費者の安心・安全を満たす中古住宅流通が行われる」
〝宅建インスペ〟定義へ
宅建業法の改正により、媒介契約、重要事項説明、売買契約の3段階において、インスペクションに関する次の行為が義務づけられる。
宅建業者はまず、売主または買主と媒介契約を締結する際、インスペクション事業者の斡旋(あっせん)が可能か否かを示す。可能である場合に希望されれば、斡旋する。重説時には当該住宅でインスペクションを実施済みか否かと、実施済みならその結果を説明。そして売買契約の締結時、インスペクションの結果などに基づいて当該住宅の現況を売主・買主双方に確認してもらうと共に、その内容を記載した書面を交付する。
インスペクションが取引の一部に組み込まれれば買主の安心感につながり、中古流通が伸び悩む現状の改善が見込める。しかし、まだ一般に定着していないインスペクションの実施を、一足飛びに義務化することは現実的でない。そのため法改正に当たり、媒介契約という初期段階に斡旋可否に関する条項を新設することで、インスペクションの活用を促す制度が設計された。
一方、具体的にどのような行為が〝宅建業法インスペクション〟と定義されるかは現時点で未定。2年後の施行までに、省令で示される。国交省は年内にも公表する考え。今秋にも再開予定の社会資本整備審議会産業分科会不動産部会(今週のことば)で、議題の一つに位置づける方針だ。
瑕疵保険と連動へ
インスペクションの詳細について現時点で確定している事項はないが、個人間売買向けの中古住宅瑕疵保険と連動させる、という方向性は固まっている。国交省はこれまで、引き渡し後に見つかった瑕疵に起因する損失を補償する瑕疵保険と、インスペクションをワンセットとして普及に取り組んできたからだ。購入時点に留まらず、居住中の安心感も担保する発想に基づく。
瑕疵保険の加入推進を図るには、インスペクションを実施済みの中古住宅の購入者が保険加入を希望する際、スムーズに手続きできる仕組みが鍵を握る。具体的には、実施済みのインスペクションを保険加入に必要な現場検査に代えることができれば、理想的だ。国交省は、瑕疵保険の現場検査の基準に近づける形で、宅建業法インスペクションの基準を定めるとみられる。
担い手については「建築士資格の保有者で、調査に関する一定の講習を修了した者」を想定。インスペクションの講習を行う団体を国交省への登録制とし、それら登録団体の講習を修了した者を担い手とする方針だ。
保険加入増にも期待
今回の宅建業法改正を受けて、瑕疵保険を提供する保険法人からは、保険の加入増加に対する期待の声が寄せられた。宅建業者サイドと足並みをそろえ、対応を進める考えだ。
「中古流通の現場では対応にスピードが求められる。今後具体化されるスキームについて、流通業界と連携し事業者と消費者に確実に伝え、円滑な制度施行となるよう対応したい」(日本住宅保証検査機構、JIO)。住宅保証機構も、「中小の地場不動産事業者に周知を行き渡らせるなど、準備がいる」と話す。同社をはじめとする保険法人や検査事業者が、問い合わせに対応し説明を尽くす必要性を指摘する。
6割以上が不適合
一方、保険加入が〝飛躍的に〟伸びる可能性については慎重な見方が聞かれた。ハウスジーメンの担当者は、保険への『適合率』の問題を挙げる。「中古ストック全体の質が上がっているわけではない。90年代に建てられた住宅でも、現場検査で6割以上が『不適合』となる。外壁のコーキングが切れているなど、多くはメンテナンスされていないことが要因だ」。インスペクションが広まっても、メンテナンス不足が原因で保険に加入できない中古住宅が一定数に上る、とみる。
検査のレベルの確保も一層、重要性を増す。住宅保証機構の担当者は「今後インスペクション市場への新規参入が増えるはず。それに伴い、検査基準をきちんと守らない事業者も出てくるのではないか。保険が伸びるのは歓迎だが、(後に損害を出すような)危険な付保物件が増えてしまっては別の問題になる」と懸念。引き続き、適切な検査に基づいて保険加入の可否の見極めを行い、中古流通の促進に貢献していく考えを語る。


























