既存住宅瑕疵保険とかインスペクション制度の整備は、住宅市場活性化の必要条件ではあるが十分条件とは言えない。十分条件となり得るのは、住み替え需要の増大である。では、日本で住み替え需要は増大するだろうか。
少ない住み替え
米国では、一生のうちに5、6回家を買い替えるのが普通だが、日本は一度か二度が普通だ。米国人はその社会的ステータスと居住地が密接に連動していて、所得や階層が上がるにつれ、それにふさわしいレベルの住宅(住宅地)を求めるのだという。
もちろん日本も今後、そうならないとは限らない。しかし〝格差〟を嫌う日本人の国民性を考えると、その可能性は低いのではないか。
それよりも、元週刊住宅情報編集長で現在は(株)風社長の大久保恭子氏が、今年3月に行われたシンポジウム「変わる女性と住まい」でユニークな問題提起を行った。 「仕事を選ぶか子育てか、昇進か辞退かなど人生の選択肢が多い女性と、相変わらず仕事優先という生き方しかできない男性が一緒に住むことが難しくなっている」
「そのため、離婚する女性や生涯結婚しないと決めた女性たちが増え、それぞれのステージに合った住まいを求めていく。更に、そういう女性たちが、50歳を過ぎてからは結婚ではなくパートナーとしての男性と一緒に暮らすケースも考えられる。そうなれば新たな住まいの需要が生まれてくる」
非常に面白い未来図だ。これからの日本社会は、血縁に基づく従来型の家族が次第に消滅し、趣味や思想、生き方などで共鳴した者同士が家族を形成していくようになるという予想(予言)もある。 そうであれば、あるコンセプトのもとに複数の人たちが一つ屋根の下に集まり、大家族のように暮らすシェアハウスのような居住形態もにわかに現実味を帯びてくる。
多様化する動機
つまり、住まいを選択する動機が、これまでのように結婚や子供の成長といったことだけでなく、個人の人生観・仕事観、パートナーとの同居、趣味など多様な要素によってもたらされるようになるということである。
ただ、そうだとしてもそれが所有や賃貸による住み替え需要の増大につながるとは言えないだろう。動機の多様化と、住み替え回数が増えることとは必ずしも連動しないからである。
では、住み替え需要の増大につながる何か別の因子はないのだろうか。言うまでもないが住宅を選択する動機が多様化するとしても、住宅がそこに住む人の幸福のためにあることに変わりはない。とするならばそこを更にシンプル化して、〝住宅は暮らしを楽しむための器〟と割り切ることこそが、住み替え需要の増大につながるのではないか。
リクルート元取締役の入村道夫氏は、14年4月に開かれた不動産業者主催の勉強会で講演し、こう述べている。
「住宅は所有することが目的ではなく、本来それは生き生きと暮らすための手段に過ぎない」。更に、これからの不動産業者が実践すべきこととしてはこうも指摘した。
「売買でも賃貸でも、まず買主(借主)候補を見つけたら、その要望を徹底的に確認しリスト化しておく。それから物件を仕入れ、リスト客から購入の相談をされたら、『購入とは超長期間の家賃の前払いだから、30年間住み続けたいという強い気持ちがあるなら買ってほしいが、そうでなければやめたほうがいい』と伝えること」
入村氏の主張は、30~35年の超長期ローンを組んででもその住宅を所有したいという気持ちと、その住宅に住むことで得ようとしている幸福度とのバランスが取れているか、そこが重要ですよということだろう。そして仲介業者は顧客にそこを確認してこそ、本当のプロであるということだ。
住文化の育成
ところで、日本に住文化はあるのだろうか。住文化は日々の暮らしを楽しむところから生まれる。何を着るか、何を食べるかを楽しむように、〝どこに、どんなふうに暮らすか〟を楽しむこと、それを人生の節目ごとに考え、それを実行に移す楽しさを日本人はまだ知らないのではないか。
だから、〝住まいの購入は一世一代、人生最大の買い物〟と言って済ましてしまっているのではないか。それでは日本人の住み替え需要は永遠に増えない。つまり、住宅市場活性化のための真の十分条件は住文化の育成である。
(本多信博)























