松岡英雄新住まいの「ことわざ」(116) 天と地
住宅新報 2012年5月15日 号 14面
連載: 新住まいの「ことわざ」
東京スカイツリーがいよいよ来週、5月22日オープンする。何かスカイツリーのことを書いておかないといけないような気がして、いざ書こうとしたが、書くことがない。
高さや構造について今更書いてもしかたがないし、なにしろあの高いところに昇っていないのだから感想も印象も書けない。
さて、どうしようかと困って押上あたりの地図を見ていたら近くに玉ノ井があることに気がついた。
玉ノ井という地名は、今はない。東向島に改められている。玉ノ井は、永井荷風の「墨東綺譚」に書かれているように私娼街だった。地名の変更は地元の要望だったのかもしれない。同様に、吉原や洲崎の地名もなくなった。洲崎遊廓に生きる遊女を描いた芝木好子の「洲崎パラダイス」を若い頃に読み、私は洲崎という地名を知った。
東京から歴史上貴重な地名を消した役所の考え方に疑問を抱いてしまう。麻布箪笥町、麻布飯倉町などは江戸の名残りが感じられる地名だったのに本当に勿体(もったい)ないことをしたものである。
東武線の「業平橋駅」が「とうきょうスカイツリー駅」に変更された。
業平橋駅は「名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと」と詠んだ在原業平にちなんで名付けられていた。
それ故、この2つの駅名には天と地ほどのへだたりがあるように思われてならない。 (エッセイスト)






















