カギを開ける!Part4
連載: 読者コラム
2010年11月16日号に、坂口有吉さんの「賃貸現場の喜怒哀楽」で、成立間近の「賃借人の居住安定確保法」が取り上げられていました。法律が施行されれば、滞納家賃の督促、悪質入居者への対応も今まで通りにはいかなくなります。今回も前回に引き続き、入居者が行方不明になった時の問題点についてお話したいと思います。
2005年の冬。連絡が取れなくなって既に2ヶ月。家賃も3ヶ月滞納
入居者は20代の男性。連絡が取れなくなって既に2ヶ月。家賃も3ヶ月滞納していました。携帯電話も止められ、勤め先もやめて、行方不明。郵便ボックスには、裁判所や金融会社からの督促状があり、自己破産目前の状態と推定されました。
事件や事故に巻き込まれた可能性も考えられ、連帯保証人のお母さんと連絡を取り、部屋に入ることになりました。カギを開ける。いつも緊張する瞬間です。
部屋には、いかがわしい”ピンクチラシ”が・・・散乱
部屋の中には生活感を残す荷物がそのまま残っていました。契約当時の「入居申込書」では、男性が一人で住むことになっていましたが、部屋には若い女性の物らしき荷物も・・・。
玄関から廊下に続くリビングには、場違いな大きさの事務用コピー機が一台。ど〜んと、置かれていました。コピー機周辺には、”ピンクチラシ”(性風俗)、”街金融のチラシ”が散乱しており、恐らく、借金の返済に困り、借り入れ先から返済の猶予として、違法なビジネスの”チラシ”を刷らされていたに違いないと思われました。
お母さんと相談して、中の荷物を全部処分することになり、処分業者を紹介しました。実は、連帯保証人といえども、勝手に荷物を処分することは、法に触れる可能性が大きいのですが、私は早く明け渡しをしてもらいたかったので、なにも言わず、いや、むしろ背中を押しました。
しかし、”事務用コピー機”については、何かいやな予感がしていました。
数日後。見知らぬ女性から連絡が入った
「あの部屋に私の荷物があったのですけど、どうしたのですか?」
「お母さんが全て処分したから知りません」
さらに数時間後、若い男性からも連絡が入りました。
「部屋の中に大きなコピー機があったはずだがどうした。あれは、自分がリースしていたものだ」
「コピー機があったかどうかも知らないし、荷物をお母さんが、どう処分したかも知らない」
「あんたがやったことは違法だぞ!弁護士に相談して損害賠償を請求するからな!分かったか!」
当時の彼らとのやり取りです。やはり、裏社会の人間が出てきました。しくじった、と思いました。今更、連帯保証人のお母さんを心配させるわけにはいかないので、ここは、
「強気で押し返す。弱腰で対応したら、必ず相手に付け込まれる。彼らは、危険で、いかがわしい仕事をやっている。その彼らが訴えるはずがない。知らぬ存ぜぬで押し通す」
と決めました。
数日間、たびたび脅しの連絡が私の携帯に入りましたが、私は「知らない。あんたの、勝手にしろ!」と突き返しますと、その後、連絡は途絶えました。
読みは当たりましたが、慎重さを欠いたために、危なく連帯保証人のお母さんを、大きなトラブルに巻き込むところでした。
残された荷物の処分をするためには・・・
まず、「契約解除」と「建物の明渡し」、「滞納賃料の支払い請求」の訴えを同時に起こさなくてはなりません。そして、その判決に基づいて強制執行を行い、財産の処分をします。
賃貸借契約には、「残された動産類について所有権を放棄したこととする」と定められていることが多いのですが、契約書通りに「その残余財産を勝手に処分」すると法令違反となる可能性があります。
建物明渡しの法的手続きを行なわず、借主の占有権が効力を失う前に、これらの残された荷物を搬出処分することは、認められていません。
「借主が賃料を滞納した場合に、貸主が勝手に部屋の鍵を交換して、借主が部屋に入ることを出来なくし、事実上、滞納賃料の支払いを促す」問題がマスコミ等で報告されています。
これは、住居侵入罪(刑法130 条)、器物損壊罪(刑法261 条)、場合によっては、造物損壊罪(刑法260 条)に該当する刑事事件となります。民事的には、その間の賃料は請求出来なくなり、逆に借主から、ホテル等の宿泊費や慰謝料などの損害賠償請求をされるおそれがあるので、決して行ってはならない行為です。
ドアのカギを明けて部屋に入った後、入居者、あるいは入居者の関係者を名乗る人物から、俺のロレックス(高級時計)がなくなった。ダイヤの指輪が見当たらない。などと因縁をつけられた事があります。私たちがカギを開けるのを待ち、それを狙って攻めてくる”手強いプロの輩”です
そんな主張されたとき、物が無くなった(損害を被った)ことの立証責任は相手方にありますが、慎重な判断、熟慮した行動を欠くと、大きなトラブルを背負い込みます。カギを開けるという行為は念には念を入れてすべき・・・。経験より。

長倉連治(マイアドバイザー.jp 登録)
明治大学工学部建築学科卒業後、建設会社に入社。現場管理・不動産の企画開発・分譲マンション事業に携わる。その後、不動産・建設会社等で、不動産の有効利用を専門に、多数プロジェクトを手がける。現在は、行政書士・マンション管理士・国土交通大臣登録証明事業不動産コンサルティング技能登録・宅地建物取引主任者 ・測量士補等の国家資格を生かし、不動産に関するコンサルタント業務を中心に行う。
現在、21コンサルティング事務所㈱代表取締役、センチュリー21平和開発(株)業務執行責任者、行政書士熊谷・長倉合同法務事務所で共同代表を務める。
http://www.c21heiwa.com/
























