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プレミアム会員限定細野徹×殿木真美子 旬な作品=住宅レビュー= (5)洗足ロッヂ 「大森ロッヂ」の矢野一郎氏

住宅新報 2011年1月11日 号 12面

連載: 旬な作品 住宅レビュー

住まい・くらし

賃貸でコーポラティブ

 設計以前に入居者を募集

 大森ロッヂの大家である矢野一郎氏と、建築設計事務所アトリエイーゼロサンの天野美紀氏が、ユニークな賃貸マンションづくりに挑んでいる。

 京浜急行線大森町駅から徒歩2分。大森ロッヂは、大和塀を巡らした800平米ほどの敷地に立つ、黒い下見板張りの木造住宅群だ。全8棟のうち、6棟が長屋タイプの賃貸住宅(全12戸)で、残る2棟には大家の親族が居住する。大和塀をくぐり、中心を貫く路地を進むと、両脇に鉢植えが並び、井戸やベンチや東屋がある。まさに「向こう三軒両隣」を実感させる小世界である。月額賃料は新築マンション並みだが、長屋的な佇まいが人気を集め、主に20-30代の単身男女で満室だ。

 天野氏は、ブルースタジオで大森ロッヂのリニューアル設計を担当した後、独立して大森ロッヂに移住。事務所を構えると同時に、住人兼管理人に変身した。大森ロッヂでは毎月のようにアート展覧会、七輪を囲む会、秋の市などの催しが開かれ、入居者やその知人が大勢参加している。催しの中心になっているのは、もちろん大家の矢野氏と管理人の天野氏だ。

 2人が現在、取り組んでいるのは「洗足ロッヂ」である。これは、矢野氏が所有する目黒区洗足1丁目の土地に、天野氏の設計で、5戸程度の賃貸マンションを新築する計画。ただし、その方法が斬新であり、矢野氏が自ら「非常識賃貸住宅」と呼んでいるほどだ。

 第1段階は「入居者の募集」。なんと、住戸の設計図が存在しない「ゼロの状態」で、入居者を募集する。このとき矢野氏が提示するのは、賃料が近隣の相場程度であり、完成時期が設計がまとまってから約1年後ということ。これに対して、応募資格は、既存の賃貸住宅では満足できなくて、自分でつくることに興味があり、完成後に入居する確率が高い人。

 第2段階は「入居者によるラフ設計」。入居者が集まって何回かワークショップを開催し、各人が理想とするライフスタイルのイメージを共有し、それをラフな設計図や模型に変換する。第3段階の「基本設計と実施設計」、第4段階の「施工」はプロの仕事になる。第5段階は「入居後の暮らしづくり」。退去時の「原状回復」を義務づけないので、入居者は自分で照明器具を設置したり壁を塗ったりしてもいい。

 驚くことに、2010年7月に、ホームページで呼びかけたところ、わずか1カ月で5組の希望者が集まった。現在は、基本設計に向かおうとしている段階で、順調に進行すれば建物は11年中に完成する。

 この方法に近いのが、コーポラティブ住宅である。これは、複数のユーザーが集まって建設組合を設立して、共同で土地を購入し、共同住宅を建て、管理していく方式だ。一般的には、プロデュース会社が主導。土地を仮押さえして、建築家に基本設計案の作成を依頼し、インターネットを通じて参加者を募集する。さらに、建設組合をサポートして、建物を完成させる役割を担うケースが多い。

 よって、洗足ロッヂの方式は、「コーポラティブ賃貸住宅」として位置付けられる。両氏は、「住む人の痕跡や履歴、記憶や想いが地層のように重なって、賃貸住宅の価値を増していくような暮らし方をしてほしい」と望んでいる。

 (細野透)

 ほその・とおる=建築&住宅ジャーナリスト。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了。工学博士、1級建築士。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、06年からフリーで活動。著書に、『ありえない家』『耐震偽装』ほか。

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