細野徹×殿木真美子 旬な作品=住宅レビュー= (3)クリサンテ(リネア建築企画)
住宅新報 2010年12月21日 号 12面
連載: 旬な作品 住宅レビュー
保存樹残る中庭を大改造
SOHO時代を開いたパイオニア
デザイナーズ賃貸住宅の企画、仲介を手掛けるリネア建築企画(東京・南青山)の社長が、今年の秋、坂野美由紀氏から堀弘之氏に代わった。
同社の設立は88年。その活動がきっかけになって、93年頃、新聞や雑誌に初めて「デザイナーズ住宅」という言葉が使われた。すなわち、坂野氏は、デザイナーズ住宅を生み、育ててきたパイオニアである。今後は会長として、実弟の堀氏をサポートする。
堀社長が「リネアの歴史を象徴する物件」と位置付けるのが、09年秋に改修された「クリサンテ」である。これは、渋谷区富ヶ谷1丁目の住宅街に立つ、RC造、3階建て、28戸の賃貸マンションだ。土地所有者の依頼により、リネアが企画、仲介、管理を担当。建築家の四倉周司氏の設計で、91年に完成した。
敷地は約400坪。広い中庭を囲むように、当時は珍しかったSOHOタイプのモダンな住戸を配置した。中庭は幾何学的なデザインで、池を設け、インターロッキング舗装を施し、芝やツタを植えた。また、建物を丸くえぐって、樹齢が百年近い保存樹のクスノキを残し、シンボルツリーとした。特筆したいのは、許容容積率150%のうち、20%を使わずに残して、「潤いの中庭」を確保したことだ。
「モダンな住戸」と「潤いの中庭」が評価されて、一貫して、ほぼ満室状態を維持。入居者には、ウェブ、アパレル、グラフィック企業で働くデザイナーが多く、SOHOとして使われる率は7割以上を占めてきた。
リネアでは、建物の維持に関して、築15年を過ぎたころから、入居者が替わるたびにフローリングや設備機器を更新。さらに、おおむね10年に1回のペースで、建物の外装、屋上、足元などを大改修している。この「クリサンテ」でも、09年秋、大改修が行われた。ユニークなのは、工事費数千万円のうち約3分の1を、中庭の大改造に注ぎ込んだことだ。
「クリサンテ」の中庭は、モダンで幾何学的なデザインであったため、時間が経つにつれて、コンクリート製の池やインターロッキング舗装に汚れが目立ち、寂れた感じがするようになっていた。
一般的に言って、モダンなデザインの建物は、改修により「新しさ」を維持して価値を保つ。一方、クスノキなどの樹木は、年月が経つと「風格」を帯びて雰囲気が向上する。それでは、両者をつなぐ中庭はどうあるべきなのか。「建物の所有者と相談して、年月を経ても、風化しない中庭に改造しようと決めました」(堀氏)。
改造工事では、まず、中庭の床に、黒色に近い石英岩の割石を敷いた。また、池は、浮き草が似合うビオトープ的な池に変更。さらに、樹木の足元に、白色とこげ茶色の砂利を敷き、20種近い植物を植えた。結果的に、西洋の古城を連想させる、重厚で風格のある中庭に生まれ変わった。
このように、「クリサンテ」は、SOHO時代の到来に対応するモダンな器となることで、同社がデザイナーズ住宅市場を開拓するのに大きく貢献。それから約20年経った現在、新社長の登場と期を一にするように、風格を高める「中庭大改造」を実施した。確かに、リネアの歴史を象徴する物件になり得ている。
(細野透)
ほその・とおる=建築&住宅ジャーナリスト。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了。工学博士、1級建築士。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、06年からフリーで活動。著書に、『ありえない家』『耐震偽装』ほか。

















