地域創生と金融 一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事、青山学院大学教授・金融技術研究所長 大垣尚司氏に聞く 高品質住宅を複数世代で使いこなす 確度が高い将来予測で建物寿命を測る「残価設定ローン」将来不安を払拭 社会が抱える課題解決で活用も
住宅新報 2023年12月5日 号 19面
田邉 最初にこれまでの経歴についてご教示ください。
大垣 1982年に日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行し、主に金融商品の開発に携わった。80年代から米国で普及し始めた証券化にも関与し、90年中頃からは銀行の不良債権処理などでも活用した。そうした実務を体系化して97年に「ストラクチャード・ファイナンス」(日本経済新聞社)を出版したところ、多くの方々に読んでいただくことができ、それがきっかけで金融技術の専門子会社に役員として転出した。そこでは、証券化に加えてweb技術を活用した先端サービスの開発に取り組む一方、確定拠出年金の運営管理会社の設立にも関与した。
そうした中、アクサ生命保険が日本団体生命を統合するにあたって知己を通じて声がけがあり、同社の専務執行役員として約3年間、商品開発とマーケティングを担当した。企業金融中心の興銀とは、まったく異なるリテール業務を知ったことは、貴重な経験となっている。
折しも、金利自由化によって政府からの借り入れに依存した住宅金融公庫融資の継続が難しくなり、2007年にこれを廃止して、米国型の公的住宅ローン証券化制度を参考にした新たな仕組みを担う独立行政法人住宅金融支援機構に引き継ぐこととなり、私も証券化の専門家としてこれに協力した。
田邉 証券化を含めたそれまでの多様な知見が、そこでも生かされたことになる。
大垣 その通りだ。そして、この機会に証券化を軸とした公的住宅金融を担う新しい民間金融機関として、米国流のモーゲージ・バンクを日本にも作ろうと考え、大手住宅メーカー4社等から出資を得て、「フラット35」を専門に取り扱う第1号の金融機関である「日本住宅ローン(株)」を2003年に設立し、その代表執行役社長に就任した。ここでは、web技術で、大手メーカー4社の展示場やオフィスをつなぎ、顧客に対して「家」と「資金」の双方をワンストップでサービス提供した上で、貸し出した住宅ローンを全て住宅機構を通じて証券化する仕組みを構築した。これを嚆矢(こうし)に、さまざまなモーゲージ・バンクが設立され、現在ではこの業界がフラット35貸出の9割超を取り扱うようになっている。
田邉 その後、新たに一般社団法人移住・すみかえ支援機構(以下、JTI)を立ち上げられた。機構が行う「マイホーム借上げ制度」とはどのようなものか。
大垣 国の住み替え支援保証業務を行う唯一の非営利法人(2023年1月現在)であるJTIが退職や介護等を機に家を住み替える者や親の家を相続した者等からマイホームであった住宅を終身で借り上げて、子育て世代等に定期転貸するという制度だ。借上げ家賃は国の高齢者居住安定基金の債務保証を受けており、一度入居者が決まれば、空き家になっても支払われることから、顧客は安心して家を資産活用できる。
田邉 これまでやってこられた金融とは随分異なるイメージだが。
大垣 実は、この仕組みが「残価設定型住宅ローン」を生み出す母体になっている。
JTIにおける15年間の「マイホーム借上げ制度」の運営を通じてアパート等とは異なる戸建て住宅等の家賃形成にかかるビッグデータが蓄積された。これを活用して高度なリスク管理モデルを構築し、将来の任意の時点における住宅の収益還元価値を保証する「残価保証」が可能となった。
「残価設定型住宅ローン」はこの残価保証を裏付けとして、普通の住宅ローン(35年、元利均等返済、団信付き)に、(1)貸主が返済額軽減オプション(選択権)を、また、(2)JTIが担保住宅の買取オプションを付加するものだ。ともに残価設定月(9割融資のときは20~25年後が目安)を超えた時点から権利行使が可能になる。残価設定月以降、(1)のオプションを行使すれば、ローンの返済額を3~4割に減らした上で、死亡時に残額を一括返済することができる。(2)のオプションを行使すれば、いつでもその時のローン残高でJTIが家を買い取るので、ローンの残高をゼロにすることができる。
田邉 どのようなニーズに応えるものか?
住宅ローンは、もともとはサラリーマンの退職時に合わせて25年返済が標準だった。だが、2001年頃に公庫融資の期間が35年となったことをきっかけに35年返済が標準となった。この結果、月返済額が大幅に減って住宅を買いやすくなったのはよいが、35歳でローンを借りると、退職後に5~10年程度の返済期間が残ってしまう。それから20年余りを経て、35年住宅ローンの老後返済負担をどうするかがまさに目の前の問題となっている。一方、これから家を買う若年層については、実質所得が伸び悩む中、建築費や労賃の高騰から住宅の価格が大幅に値上がりしている。これまで需要を下支えしてきた超低金利も日銀の金融政策転換で転換点を迎えている。
折しも、地球環境問題の深刻化から、これまでのような家を30年余りで潰しては作るというビジネスモデルはもはや成り立たず、100年住宅を複数世代で循環させる時代が到来している(ハコの循環)。一つの住宅を複数の世代が住み継ぐなら、住宅ローンもまた複数の世代で返済するのが自然だ。
一方、人生100年時代を迎えて、2006年の住生活基本法では、ライフステージに合わせて住まいや場所を住み替えることのできる社会が目標として掲げられたところである(ヒトの循環)。しかし、現役時代に買った家族住宅に夫婦と子供が住む期間は25年程度であり、住宅ローンの標準期間である35年は長すぎる。遅くとも、その辺りからは「ローンからの自由」を確保しておく必要がある。
こうした二つのニーズを満たすのが「残価設定型住宅ローン」だ。
田邉 保証できる残価は、住宅の構造や維持管理状況などによって変わらないか。
大垣 収益還元価値は家を長期間安定的に運用できるほど高くなるから、長寿命でかつ維持管理がしっかりした住宅であることが欠かせない。そこで当面は、国から認定を受けた長寿命住宅(認定長期優良住宅)であって、維持管理体制が十分に確立したJTIに協賛する事業者や団体加盟の事業者が施工する住宅のみを対象としている。
田邉 移住・住みかえの促進は、地域創生にどのように役立つだろうか。
大垣 リモートワークの普及で住む場所の選択にかかる自由度が増し、通勤の利便よりは子育ての環境を重視する傾向も強くなっている。退職に向けて早めにセカンドライフを始める者も増えるだろう。持ち家を売らずに手軽に運用でき、ローンを組んで買った家が人生の「足かせ」とならなくなれば、地方居住の促進や空き家問題の解決、団地の再生などにも資するところが大きいと考えている。



























