今後の住宅問題を取り巻く社会情勢の一つに「健康志向の高まり」がある。高齢化の進展で「人生100年時代」となり、いつまでも健康に暮らしていくことへの関心が否応なく高まっている。併せて介護費、医療費負担が増えることへの不安も大きい。中でも現代人が癌以上に恐れているといわれるのが認知症だ。負担は3600万円
「親が認知症になる前に知っておきたいお金の話」(ダイヤモンド社)の著者である横手彰太氏によると、例えば78歳の男性がおよそ10年間認知症を発症していた場合にかかる介護・生活費用は約3600万円に達するという。自宅期間中(5年間)の負担額が1160万円、施設介護期間中の負担額が2500万円と試算されている。ちなみに認知症の平均発症期間は15年ともいわれている。
認知症は「生活習慣病」の一種である。それも、40代頃からの長い生活習慣が高齢になってからの発症要因につながっていくとみられている。生活習慣には飲酒、喫煙、運動不足など様々な習慣があるが、意外に見落とされているのが「住まい」である。
毎日同じ家に住んで暮らすわけだから家そのものが生活習慣になっている。考えてみれば人間は家の中にいる時間が最も長い。家の中はもちろん、その周辺環境も含めた諸々の要素が長い年月を通して人間の脳に不可逆的な作用をもたらすという。
例えば、家の中の湿度、日照時間、壁の色調、天井高、階段のこう配などが住む人の精神面に与える影響についてはあまり知られていない。更に隣家との狭い間隔、もろに向き合う窓、近隣住居と比べた外観デザインの劣勢なども毎日のことだけに、無意識下にストレスとして蓄積されていくことがあるという。
つまり、こういうことである。家に帰ったら我が家らしさ、自分らしさが感じられる家、それが脳にも健康にも〝いい家〟となる。
豪華なマンションでは時折、ランドスケープやエントランス、ロビーなどの設計を世界的に有名な建築家やデザイナーに担当させ、それをアピールするケースがある。しかし、たまに泊まるホテルや旅館などなら理解できるが、毎日の暮らしの場である我が家に超有名デザイナーのセンスを取り込むことはどうなのだろうか。
あくまでも趣味の問題だろうが、そのデザインが個性的であればあるほど、そのデザインを生み出した他人の脳波を毎日浴びているようなイメージが私にはある。
脳を働かす
自分らしい住まいに住んでこそ自分の脳がリラックスし、新鮮な感性を呼び覚ますのではないだろうか。だからこそ、部屋のインテリアや庭づくりに精を出す意義がある。ひとは他人の脳が作り出した人工物の中でばかり生活していると、しまいにはそれが自分の脳が作り出したものと思ってしまう習性もある。そのことに気付かないで生きているうちに、脳の劣化が始まるのかもしれない。なにしろ、真の意味で自分の脳を働かせていないからだ。
一方、認知症になりやすい生活環境としては、高齢者の一人暮らしがある。高齢者が一人暮らしをしていると、人との交流や会話が減っていく。それによる〝孤独感〟が認知症の発症と関係しているようだ。
例えば、オランダのアムステルダム自由大学医療センターの3年間にわたる追跡調査によれば、一人暮らしグループの認知症発症率は、そうでないグループの1.7倍になった。また、同じ一人暮らしでも「孤独を感じる」と回答したグループは、そうでないグループの2.4倍も認知症発症率が高かったのである。
孤独感や不安感が認知症のおおもとにあることが分かってきた。
ということは、親が一人暮らしをしている場合には、実家を訪ねる回数を増やしたり、電話を定期的に掛けるなどして、孤独感を和らげることが認知症予防になる。また、結婚して独立した子世帯が遊びに来やすい間取りに実家を改装することも、親の認知症を防ぐ有効な手段となる。 (本多信博)


















