点検 不動産投資 宮城大学事業構想学部教授 田辺信之 「環境と不動産」シリーズ(20) 中間まとめ後半 費用対効果が制約要因に 海外で目立つインセンティブ付与
住宅新報 2014年2月4日 号 5面
連載: 点検 不動産投資
不動産の環境対策の中には、個別のビルやマンションなどで講じられている省エネやCO2削減といった対策もあれば、更に広く面的にエリア全体を対象とした対策もあります。代表的な事例の一つが、新日鉄興和不動産が取り組む八幡東田総合開発です。対象地域は、新日鉄住金八幡製鉄所の跡地120ヘクタールで、電気・ガス・水道などのインフラ整備からスタートした開発です。この開発は「次世代エネルギー・社会システム実証事業」に選定されているように、全国初の独立した地域電力網や環境共生住宅を備えているところに特徴があります。
電力源の域内活用
LNGで稼働する「東田コジェネレーション」は、元々は電力ではなく熱をつくる目的の設備ですが、これを域内で電力源として活用することにより、CO2排出量を火力発電の3分の1に抑えています。域内発電なので送電ロスが抑制され、電気料も安くなっています。太陽光発電や工場内で発生する水素などの活用も進められています。
森ビルでは個別ビルでの積極的な環境対応以外に、アークヒルズ、愛宕グリーンヒルズ、六本木ヒルズなどの大規模開発で、緑被率などの指標を用いて、地域全体の緑被率向上に貢献しています。また、日比谷公園、浜離宮、芝公園といった周辺の自然環境を結んだ「エコロジカル・ネットワーク」を構築することにより、生物多様性などの課題にも取り組んでいます。
このように、「環境と不動産」は「環境リスク」への対応はかなりの程度まで進んできましたが、「環境への貢献」という意味では、費用対効果が制約要因となっており、まだ改善の余地がありそうです。それでも、事業者の意識は変わりつつあり、環境対応のための新たな試みが積極的に講じられるようになっています。事業者にとっては、法令等の規制への対応、CSR(企業の社会的責任)の遂行、テナントサービスの向上といったインセンティブがあるので、これと「費用対効果」のバランスをいかに取っていくかが課題になります。例えば、オフィスビルの節電をしようとすれば、テナントの協力が不可欠となりますが、そこではオフィスワーカーの生産性とのトレードオフの問題が生じます。
多様な世界の環境対応
海外では一定の環境基準を満たす建物について、税の減免や容積率アップといったインセンティブを与えている例が数多く見られます。日本でも何らかの形でのインセンティブの付与を検討する余地がありそうです。
また、不動産の環境対応を促すためには、その基準となる指標が必要になります。不動産の環境対応レベルを示す指標として、米国のLEEDや英国のBREEAMが世界的に認知されています。日本でも、02年に建物の環境評価指標としてCASBEEがつくられましたが、取得手続きの煩雑さに加え、設計時点の環境対応を示すものであることから、当初考えていたほどには普及していません。しかし、運用後1年が経過したオフィスビルを対象とするCASBEE不動産マーケット普及版が登場したことにより、こうしたネックは解消されつつあります。今後は、CASBEE普及版の世界的な認知度を上げていくことが課題となるでしょう。
世界の情勢に目を向けると、不動産に対する環境規制が国によって異なることにも留意する必要があります。例えば、土壌汚染については、日本では規制対象となる汚染物質の数が比較的少なく、用途にかかわらず一律規制となっているのに対し、欧米では対象物質が多いものの、住宅用と産業・商業用に基準が整備されています。アジア各国では欧米型が多いので、日本からの投資に当たっては、これらの違いを認識したうえで、環境リスクをマネジメントしていく必要があります。
英国の環境対応の動きも活発化しています。財務報告と環境報告を一緒にした「統合報告」制度が英国主導で始まったことや、土地や水などの自然資本の価値の変動をGDPに反映させる「ナチュラルキャピタル」(自然資本)という考え方が英国内で取り入れられたことは、留意しておくべきでしょう。得られた知見を踏まえつつ、次回以降更に事業者などへのインタビューを続けていきます。(終わり)
























