細野徹×殿木真美子 旬な作品=住宅レビュー= (21) 第4世代の狭小住宅 「ミニマム+シェア型」で賃貸併設 DAMIER APOLLO・黒崎敏氏設計
住宅新報 2011年5月3日 号 9面
連載: 旬な作品 住宅レビュー
敷地が20-15坪以下の土地に建つ住宅を「狭小住宅」という。東京では、狭小住宅は主に路地裏に生まれ、根づき、着実に広がってきた。狭小住宅は、第1世代、第2世代、第3世代を経て、現在は第4世代を迎えている。その第3世代と共に成長し、かつ第4世代をリードしているのが、建築家でAPOLLO一級建築士事務所を主宰する黒崎敏氏だ。
「DAMIER」は黒崎氏による第4世代の狭小住宅である。敷地は、JR上野駅から徒歩数分の場所にある角地で、広さは9.48坪。建主は30代の夫婦で子供がひとり。木造2階建ての長屋を解体し、跡地に鉄筋コンクリート壁式構造、5階建ての建物を建てた。建築面積が6.86坪であるにもかかわらず、1階を賃貸オフィス、2-5階を自宅とした。
最下階を賃貸空間とし、上層階を自宅とする形態は、都心部ではもはや典型的な住居スタイルではあるが、それが9.48坪の敷地で可能になることがやはり驚きである。「DAMIER」とはフランス語で市松模様という意味。その名の通り、ファサードには市松模様に窓が設けられている。夜になると、窓から漏れる光が界隈を「行灯(あんどん)」のように照らしている。
狭小住宅の第1世代を切り開いたのは、1950年代の増沢洵「最小限住宅」や池辺陽「立体最小限住宅」。工業化やプロトタイプとして都市住宅を考えようとした作品である。第2世代は、66年の東孝光「塔の家」や76年の安藤忠雄「住吉の長屋」。社会が成長する過程で個人が都市を生き抜くための声明であった。
「これに対して、2000年以降に登場した第3世代の狭小住宅は、都市が巨大になるだけではなく、電子メディアがもう一つの『見えない都市』を築きあげた時代を生き抜くために登場。薄れゆくヒューマンスケールに対して、本来のバランスを取り戻すためにも、『身の丈空間』から始める必要があったと思います。ここまでが、いわば、『ミニマム+所有型』です」
「第4世代に入り、賃貸併用住宅やSOHOなどライフスタイルと混在させる、『DAMIER』のような『ミニマム+シェア型』が新たに生まれてきました。広義に捉えるならば、コーポラティブハウス、シェアハウスなども、その派生形です。個人の発想が、所有から人々との共有やエコの方向へと変化してきたことの現れではないでしょうか」(黒崎氏)。
3月11日、巨大地震が発生した瞬間。筆者はお茶の水にある黒崎氏の事務所で、狭小住宅について取材中だった。帰宅難民として事務所でひと晩を過ごさせてもらい、翌朝、自宅に帰った。後日、黒崎氏に、「大震災の前と後とで、建築観が変わりましたか」と聞いた。
「かつて、沢山のことが過剰に行われていたバブルの時代が崩壊したからこそ、『狭小住宅』という慎ましい、身の丈の考え方に人々がシフトしてきた経緯を肌で感じていました。すべてがダウンサイジングされた空間で暮らす人々が、どこか濃密で、幸せな顔をしていたことが強く印象に残っています」
「人間の孤独を深く理解し、社会の局面を切り開く構想力を蓄え、失った世界に代わる新しい世界を生み出す、使命感や覚悟を持ちたいと思います。本物だけしか残れない時代が来てしまったというか……。あとは、今まで通り、想像力をもって、誠実に淡々と、目の前の建築に向かっていくだけです」
(細野透)
ほその・とおる=建築&住宅ジャーナリスト。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了。工学博士、1級建築士。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、06年からフリーで活動。著書に、『ありえない家』『耐震偽装』ほか。

















