ロボットは住まいの未来をどこまで変えるのか
連載: 住まいと暮らし
ヒューマノイド・ロボット好きの日本人
2000年、本田技研工業が、二足歩行のヒューマノイド・ロボット「ASIMO(アシモ)」を完成させた。
故・手塚治虫氏の名作漫画「鉄腕アトム」以来、日本のエンジニアの夢であった自立型のヒューマノイド・ロボットが実現したのだった。
その1年前にはソニーがペット型ロボット「AIBO(アイボ)」を発売、爆発的人気となった。
以後トヨタや村田製作所などが自律型ヒト型ロボットを続々と発表した。誰もが「ロボットが生活空間に入り込む近未来が間もなく実現しうる」と期待した。だがその後、ロボットの話題は低調だ。
アシモの足取りはやや軽快になったが、いまだイベント向けの域を出ない。アイボは開発どころか、生産中止となってしまった。
「どうも日本人はアトムの影響かヒューマノイド・ロボット好きがあって、それをマスコミが喧伝しすぎてきたような気がする」と語るのは早稲田大学創造理工学部の菅野重樹教授だ。
早稲田大学は、世界初のヒューマノイド・ロボットを1973年に発表するなど、ロボット研究では先端を走ってきた大学の一つ。
菅野教授は、そこで住宅を含めた環境と人間とロボット共生のあり方について研究するプロジェクト「Wabot-House研究所」の所長を務めてきた。
「日本はいろいろなロボットをつくってきているが、いまだ単体のロボットが家のなかで何でもこなすというのは、かなり難しい」という。
「ロボットが自律的に動くには、建物のどこにいるのか。周りに何があるのか。人がいるのか。人がどう動いているのかを正確に認識しないといけない。そういうプログラミングは、極めて難しい」ためだ。
ロボット技術を駆使して家全体をロボット化
そこで最近、ロボット関係者が意識して言っているのが、ロボットそのものではなく、RT=Robot Technology(ロボット技術)である。
ロボットは、状況を測るセンサー、それぞれの部位を駆動させるアクチュエーター、情報を解析判断し、動きを制御するコンピュータ・人工知能の、3つの技術で構成される。この3つを連動させたものがRTである。
RTの裾野は広い。産業用ロボットはその代表だ。日本は世界で最も多くロボットをつくり、最も多く使っている。産業用ロボットは世界の3台のうち2台が日本でつくられ、3台に1台が日本で稼働している。
よって「家のなかにロボットを入れるのではなく、RTを使って家全体をロボット化するほうが現実的」(菅野教授)なのだ。
たとえば「家のなかにセンサーを置いて、その情報をRFIDタグなどで読み、サーバーやコンピュータで集中管理していけば、ロボットをすごく高性能化しなくても、簡単にサービスが受けられる」(菅野教授)
万能型のヒューマノイド・ロボットではなく、家具や家電にロボット機能を持たせる考え方だ。
ロボティック椅子にロボティックベッド
実はこうした取り組みはハウスメーカーや家電メーカーで始まっており、製品化が進んでいる。
積水ハウスは、2006年より千葉工業大学と組み、RTを利用した高齢者向けの在宅健康管理・支援システムの共同開発を進めている。
これは血圧計や体温計、体重計などを埋め込んだ椅子型のロボットで、血圧や体重を測定し、健康状態を管理する。操作はタッチパネルや音声認識システムで行われ、測定された生体情報が一定の基準を超えた場合は、担当医に情報が送信され、電話などで指導を受けることができる。
家電メーカーではパナソニック2009年に「生活」「医療福祉」「製造」の3分野でのロボット事業化を発表。ベッドと車椅子が一体となる「ロボティックベッド」のコンセプトモデルや自動で洗髪からコンディショニング、ブローまでを行う「洗髪ロボット」などを開発している。
ロボティックベッドは、車椅子にリクライニング機能をつけ、車椅子に乗ったままベッドに移動し、そのまま寝ることができる仕組み。足腰の不自由な身体障害者や介護が必要な高齢者などのニーズに応える。
一方アシモを生み出した本田技研も、その二足歩行技術を応用した、歩行アシストシステム「リズム歩行アシスト」を開発するなど、その技術の応用化を図っている。リズム歩行アシストは、腰回りに装着して歩くだけで、筋力が付き、歩幅の長い、テンポの良い歩行が可能となる。
次々とベンチャーと組む大和ハウス

大和ハウスの狭小個所点検ロボット「モーグル」。
床下など人が入り込みにくい場所の点検を遠隔操作で行う。

同じく大和ハウスの「パロ」。
もっとも癒し効果の高いロボットとしてギネス
認定を受けている。
ハウスメーカーで積極的なのは大和ハウス工業だ。
2008年に「ロボット事業推進室」を立ち上げると、ロボットスーツ「HAL」を開発したつくば市の「サイバーダイン社」との提携を皮切りに、積極的にベンチャー企業と協業、販売展開している。
2010年には、富山県の「知能システム社」提携、癒し効果や認知症者の能の活性化などに効果を発揮するアザラシ型のセラピーロボット「パロ」を発売。2013年3月で、世界2300体を販売し、売れ続けている。
画期的なのは2013年発売した「マインレット爽(さわやか)」。仙台市の「エヌウィック社」が開発した自動排泄処理ロボットで、発売1月で240台のオーダーがあったという。
これは寝たきり状態にあっても、おむつと一体化したカップを装着しておくだけで、排泄した便や尿が自動的吸引。その後洗浄、除湿まで行う。排泄に伴う本人の気兼ねや、介護者の負担を大きく軽減させる。
大和ハウスロボット事業推進室室長の田中一正氏は「どこまで反応があるか不安だったが、いかにニーズ高い商品だったかが証明された」と胸を張る。
介護ロボットは日本人のメンタリティに合う

介護福祉関係者が待ち望んでいた「マインレット爽」。
外見はただの移動する「箱」だが、ロボットである。
介護保険の対象。
こうした福祉分野のロボット開発が多いのは、とりもなおさず刻々と進む少子高齢化に対応するためである。早稲田大学の菅野教授は、介護の現場にロボット技術が入ることは産業振興のみならず、日本人の特性にも合っているという。
「日本人の文化として、人の世話をしてもらうということに対しての抵抗感が強い。それは特養など介護施設のみならず、家庭でも家族に迷惑をかけけたくないという思いが強い。そういうところの自動化にロボットが期待されている」
もちろん期待されるのはこうした福祉分野だけではない。大和ハウスでは、このほかに「女性や高齢者の社会進出」「居住空間の見守りや家事支援、健康管理、省エネ」にロボット技術を使った支援機器の開発提供を目指している。
前者では、パワーアシストなどの機能もったロボットを利用することで、荷物などの移動にかかる負荷を軽減するツールなど。後者では防災や警備、あるいは掃除ロボットなどが挙げられよう。
家全体のロボット化の先にあるもの
菅野教授が語るように、こうしたロボティックな家具や家電、アシストツールがネットワークに繋がることで、より快適な生活空間が生まれることは想像できる。
しかし折角のRTを、そこで留めておくのはもったいない。
ロボットのロボットたるゆえんは、何かを動かすことである。
センサーで感知し、そのデータで動きをコントロールするものと言えば、クルマがある。クルマの居住性が高まれば、クルマが住まい化する可能性はある。あるいはクルマと家がより融合していくことはあり得るだろう。
居住空間のコア機能だけを移動させながら、複数の拠点で暮らすライフスタイルも生まれるかもしれない。
震災や災害時の避難や生活再建時の選択肢も増えるかもしれない。
家とロボットの融合は、まだ始まったばかり。もっと自由で自在な発想を求めたい。

















