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プレミアム会員限定知って得する建物の豆知識 408 セルリアーナという窓の物語 日本でも明治期の洋館に

住宅新報 2025年10月14日 号 10面

連載: 知って得する建物の豆知識

住まい・くらし
  • 知って得する建物の豆知識 408 セルリアーナという窓の物語 日本でも明治期の洋館に

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  • パッラーディオ窓とも呼ばれるセルリアーナ

    2 / 2パッラーディオ窓とも呼ばれるセルリアーナ

 ヨーロッパの建築を見歩いていると、どこかで必ず目にする特徴的な窓の形があります。中央に大きなアーチがあり、その両脇に低い四角い開口部を並べた三連の構成。柔らかさと荘厳さを兼ね備えたその姿は「セルリアーナ(Serliana)」と呼ばれます。日本語では「パッラーディオ窓」と紹介されることもあります。

 この呼び名は16世紀イタリアの建築家、セバスティアーノ・セルリオに由来します。彼は建築理論書『建築の書』を著し、その中で古代ローマ建築を再解釈して多くの図版を残しました。その中に描かれた三連開口部が、後世「セルリアーナ」と呼ばれるようになったのです。彼自身が創始者というより、古典の知を整理し、図面によって広く伝えた功績が大きいといえるでしょう。

 この形式を最も積極的に用いたのは、後にルネサンス建築を象徴する巨匠アンドレア・パッラーディオでした。ヴィラ・ロトンダを始めとする邸宅建築には、必ずといってよいほどセルリアーナが組み込まれています。中央アーチは威厳と象徴性を与え、両脇の矩形開口は安定感を演出します。全体がリズミカルで調和のとれた外観をつくり、建物の顔ともいえる重要な要素となりました。

 ヴェネツィアの宮殿建築でもセルリアーナは多用されました。水辺に面した立面に並ぶ三連窓は、都市景観の大きな特徴となっています。のちにこの意匠はイギリスへ伝わり、ジョージアン様式の邸宅や教会建築に数多く取り入れられました。

 17世紀以降、イギリスではパッラーディオに影響された「パラディアニズム」が隆盛を極め、田園邸宅や公共建築に広がりました。イギリス植民地であった北米にもその思想が伝わり、アメリカ建国期の指導者たちに強い影響を与えました。特にトーマス・ジェファーソン(第3代大統領)は熱烈なパッラーディオ崇拝者で、『建築四書』を愛読し、ヴァージニア州の邸宅「モンティチェロ」や「ヴァージニア州会議事堂」にその思想を反映しました。更に近代を経て、世界各地の洋風建築に広がり、日本でも明治期の洋館にその影響を見出すことができます。

 セルリアーナの魅力は単なる装飾にとどまりません。中央アーチから差し込む豊かな光は、室内空間にドラマティックな表情をもたらします。両脇の開口部とのバランスによって、採光や眺望が均質化され、外と内をつなぐ装置として機能しているのです。建築が「美」と「実用」をいかに両立させるか、その解答の一つがここにあるといえるでしょう。

 現代住宅においても、セルリアーナはデザインのヒントを与えてくれます。例えばリビングの大きな開口部を中央のアーチ形窓と両脇のスクエア窓で構成すれば、外観に格調を加えつつ、内部に柔らかな光を導き入れることができます。古典建築の意匠をそのまま模倣するのではなく、「中央と両脇の対比」「丸と四角の調和」という原理を応用することによって、モダンな住宅にも取り込むことが可能です。

 建築の歴史は、過去からの引用と再解釈の連続です。ルネサンスの建築家たちが古代ローマを学び、そこからセルリアーナという形式を育てたように、現代の私たちもまた、歴史的意匠のエッセンスを暮らしの中に生かすことができます。窓という最も身近な建築要素に潜む物語を知ることで、日々の景色が少し違って見えてくるかもしれません。(建築家・中村義平二)

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