この地上において今 住まいが未来を語り始めた ◇3 住宅評論家 本多信博 夢膨らむ〝リモート社会〟 働く自由が心を広げる
住宅新報 2020年8月4日 号 15面

リモートワークが定着するかどうかの議論が盛んだが、新たな文明となるかもしれないリモート社会に夢は膨らむ
リモートワークを前提に東京から脱出する動きが出始めたのだろうか。ニッセイ基礎研究所のレポート(佐久間誠氏)では、「東京都への人口流入は足元でストップし、20 年5月は1069人の転出超となった。新型コロナウイルスの感染動向によっては、今年の東京都への転入超過数は前年から大幅に減少する可能性がある」と指摘している。
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仮に東京脱出組が増えるとしても、その形態は一様ではない。完全な地方への「移住・定住」もあれば、東京と地方の両方に拠点を持つ「二地域居住」も選択肢の一つだ。
ふるさと納税総合サイトを
運営するトラストバンクが6月に実施した調査では、後者が42%で、前者の31%を上回っていた。コロナの感染拡大で東京にリスクを感じながらも、地方への完全移住には子供の学校など何かと課題が多いためと推察できる。調査対象は都内に住む20代以上の男女1078人となっている。
日本賃貸住宅管理協会の末永照雄会長は、「今後は都内の自宅を賃貸で貸して、自分は賃料の安い地方に住みながらリモートで仕事をする若い人たちが増えてくるのではないか」と推測する。これもコロナが促す新たな生活スタイルの一つだ。賃貸だから地方での拠点を適宜変えることもできる。
製菓大手のカルビーが東京への単身赴任を免除するというニュースも話題になった。地方の工場などに勤務している社員を東京本社に転勤させる場合、これまでは単身赴任が常態化していた。今後は本人が希望すれば地方に住んだまま東京本社所属とし、リモートで本社の仕事をすることを認めるという。
企業と社員の新たな絆
これも企業にとってはニューノーマルの一つになるという指摘がある。企業は売り上げや利益増大よりも、社員の希望や健康を優先するようになるという。企業と社員が新たな価値観を共有することで、従来よりも強い絆を持とうとする試みだ。
その背景にあるのは、〝人生100年時代〟の到来ではないだろうか。100年という壮大な時間が、逆に日々の暮らしへの思いを深めつつある。同時に日々の暮らしの核となる住まいや家族を見つめる視点にも大きな変化が現れ始めたということだろう。
暮らしそのものの重要さに気付けば、〝一生に一度〟と思い詰めた住宅所有にこだわって、長期の住宅ローンに縛られる価値観は急速に色あせていく可能性がある。
渡り鳥のように
こうした、住まいに対する意識の変化を察知し、ニュービジネスを立ち上げた会社がある。オラガ総研社長の牧野知弘氏が満を持して創設した全国渡り鳥生活倶楽部(東京都千代田区、牧野知弘社長)である。
同社は7月22日から、全国各地にある空き家や利用頻度の少ない別荘などを借り上げ、会員に1カ月単位で貸し出すサービスを始めた。
例えば桜の季節は京都二条城の夜桜を見に、夏は涼しい八ヶ岳へ、秋は十和田湖の奥入瀬渓流で紅葉を楽しむなどまるで全国を渡り鳥のように移動しながら暮らしたいと考えている人たち向けのサービスだという。企画当初は主に富裕なアクティブシニアをイメージしていたようだが、リモートワークによる働き方改革が加速すれば、現役世代にも可能性は広がると見る。
牧野知弘社長はこう話す。
「そう遠くない時期に世の中から〝通勤〟という言葉がなくなる可能性がある。多くのホワイトカラーの人たちが自らのスタイルで働き、会社とはネット上でつながるだけで、自分の好きな場所に居を構え、仕事はモバイルで行うのが当たり前の世の中になるのではないか」
同社は5年後に借り上げ物件500棟、会員1500人を目指している。
コロナを機に一気に広まったリモートワークだが、働く側だけでなく企業側にもリモートを広めたいという意識が高まっている。双方の利害が一致すれば、リモートワークの普及は、思いもよらない社会を生み出す可能性を秘めている。
(住宅新報顧問)

















