幸福論的 『住宅論』 住宅評論家 本多 信博 88/100 住まいを考える好機 住む人をトータルに捉える
住宅新報 2020年4月21日 号 17面
連載: 幸福論的「住宅論」

住まいが人にとって最も大切な場所であることはこれからも変わらない。だからこそ、住まいとは何かの探求も終わらない
住まいはこれまで〝生活の基盤〟と言われてきたが、在宅勤務の普及でその意味合いが変化し始めている。つまり、生活の基盤という、その中に〝仕事場〟という概念も入り込み始めた。
今回は緊急避難として導入された在宅勤務だが、企業は思いのほか多くの仕事がこなせることに気付いた。そのため、コロナ収束後も在宅勤務の拡大は続くという見方が強まっている。
〝攻め〟の拠点
そのことが企業も個人も住まいについて考え直す好機になるのではないだろうか。住まいはこれまで、会社から帰り、仕事で疲れた体を休ませる場所、家族との憩いの場という〝守り〟のイメージが強かった。
しかし、これからは通勤(痛勤)という時間ロスをなくし、時間帯に制約されることなく、より効率的に仕事を生産していくための〝攻め〟の拠点になる。
時間帯に制約されなくなることで、早起きが好きな人はまだ日が昇る前から仕事をするようになるだろう。それに同調する人が仕事先に現れるかもしれない。このように働き方改革と住まい革命が連動すると、人々の意識革命にもつながっていく。簡潔に言えば、いわゆる〝会社人間〟からの脱却である。
これまで、日本の終身雇用と年功序列制度はそう簡単には消滅するはずがないと思われてきた。しかし、在宅勤務が普及し会社と距離を置くことが多くなれば、これまで会社と従業員との間にあったウエットな関係が次第にドライになっていく可能性がある。
別の言い方をすると、会社と従業員との関係を律するのはこれまでの就業規則ではなく、一定の業務を介しての請け負い型契約に変わっていくのではないか。
極論すれば、そう遠くない未来に〝サラリーマン〟という職種(人種)さえもがなくなり、誰もがフリーランス的な立場に変わっていくことさえ予想される。
そうした予測には、20年後にはAI(人工知能)によって、今存在する職業の9割が失われているだろうという推測結果も関係している。人類の科学技術は、20年と言わずわずか10年後の未来でさえ予測しがたいスピードを持ち始めた。では、不動産業はそうした時代にどうあるべきなのだろうか。不動産テックの開発進化といったことは、不動産業の本質から見れば皮相なことに思える。
今こそ、住まいやオフィスなどの本質を見つめなおし、〝人と場との関係〟を捉えなおす好機と考えるべきではないだろうか。
〝場〟の研究
例えば、人間にとって住まいが最も大切な場所であることはこれからも変わらないだろう。しかし、住まいの本質が大きく変わり始めた可能性もある。これまでのように、単に憩いや安らぎをもたらすだけの場所ではなくなっていくようだ。
在宅勤務など仕事場としての機能をも持つためには、そのための設備機器はもちろん、仕事に集中できる一定の空間が必要になる。憩いの場と仕事場が併存する姿は昨今のオフィスづくりにも見られることだが、これからの住まいにおいては、その比重が人(職種)によって変わってくるということだろう。
住まいはそれが、持ち家と
か賃貸であるとかは関係なく、そこに住む人の暮らしを豊かに支えるものでなければならないことは言うまでもないだろう。とすれば、憩いの場としての安らぎと、仕事場としての静謐性を融合したような住まいづくりが新たなテーマになる。
それは、これまでの住まい造りにはあまり見られなかった視点となる。それはある意味、医学界で台頭し始めた「統合医学」のようなものだろう。統合医学とは患部に対し対症療法を施す西洋医学だけでなく、東洋医学や様々な代替療法をも併せて患者を全人格的に捉えて最善の治療方法を探る医学のことである。
これを住まいづくりに当てはめれば、憩いとか静謐さとか個々の機能に注目するだけではなく、住む人を人間的にトータルに捉えて、その人が最も豊かな時間を過ごせる空間づくりを目指すということである。
(住宅新報顧問)

















