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スタンダード会員限定幸福論的「住宅論」 住宅評論家本多信博 ◇8 住宅を介して考えれば 普遍的テーマが身近に

住宅新報 2018年8月28日 号 11面

連載: 幸福論的「住宅論」

住まい・くらし
自然に接すると身も心も洗われた気持ちになるのは人間も自然の一部だから

自然に接すると身も心も洗われた気持ちになるのは人間も自然の一部だから

 幸福について考えることは、人間について考えることである。住宅について考えることも、人間について考えることにほかならない。

 人間についての深い洞察を欠いた住宅論ほど陳腐なものはないだろう。だから、今から約700年も前、吉田兼好は『徒然草』で、〝住まいは人なり〟と言った。

 では、人間とはなにか? そして今、住まいについて考える意義とはなんだろうか?

アプローチを変更

 幸福や人間とはなにかといった〝普遍的テーマ〟には古今東西、多くの哲学者や思想家が挑んできた。もちろん、そこに絶対的な答えなど存在しない。それでも、人間にとってそれは〝永遠の課題〟と思われてきた。

 しかし、ここにきて、ややアプローチの仕方を変えるべき時代に差し掛かっているのではないかという気もするのである。あえて〝遠大なテーマ〟は敬遠し、〝身近なテーマ〟として捉えるため、「住宅」を介在させてみよう。

 そこで、「住まいとはなにか」について、〝それなり〟の結論を得ておかなければならない。唐突だが、住まいとは「住む人の心に生じた心象風景である」としておこう。

 そうであるならば、ひとを幸福にする住まいの輪郭が見えてくる。つまり、そこに身を置けば、自分が何者かを問うことができるそんな予感が漂う空間である。例えば、こんなふうに――。

 「自分は一介の教師である。だから教師として生徒とどう接するべきかを常に考えるべきだ。そして、生徒一人ひとりの様子を観察し、どんな小さな変化も見落とさないように気を配る。それが、私にとっての〝幸福〟であり、〝すべて〟である」

 吉田兼好が生きた鎌倉時代末期・南北朝時代と現代を比べれば、最大の違いは情報量の多寡だと思う。皮肉にも情報量が少なかった当時のほうが、人間としての比重は格段に大きかった。

 だから当時の人は、「幸福とはなにか」「人はどう生きるべきか」、更には「住まいはどうあるべきか」についてさえ真剣に考えたのである。現代はその逆となる。

 現代人が不真面目で、怠惰になったと言っているのではない。科学技術の進化で、この世の仕組みの複雑さが解き明かされるにつれ、皮肉にも一片の人間にとっての〝神聖なるテーマ〟はその意味が薄れつつあるのではないか。

 日本でも今、地球から約3億キロも離れた長さわずか900メートルの小惑星に無人探査機「はやぶさ2」を着陸させ、太陽系と生命誕生の神秘に迫る資源を持ち帰る(20年末予定)という一大プロジェクトが進行中である。

この世は理解不能

 人間が生み出した科学技術が、人間から「人はなぜ生きるのか」という普遍的テーマを奪い去ろうとしている。なぜなら、この世の仕組みはあまりにも複雑で永遠に解けることがないだろうということを、科学が証明しつつあるからだ。そうであれば、一人の人間は、一人の人間として生きるしかない。

 しかし、そのことが一人の人間の、人間としての価値を貶めているわけではない。むしろ、現代人は一人の人間として、自らの職業観、倫理観、家族観を確立し、自由に生きればよい。「人間はどう生きるべきか」という普遍的テーマに縛られることなく、自分の価値観の中で、のびやかに生きる権利を得たともいえるだろう。その価値観の一隅に「住まい」がある。現代社会では、ひとが主体性をもって選ぶことができる環境が「家」である。

 都会に暮らすひとの心は疲れている。他者が創造した人工物に囲まれているからだ。都市では、小さな我が家のその限られた空間だけが、自らの趣味や嗜好を生かせる場所となる。また、人間は自然の一部だから、自然を感じる空間がなければ窒息する。住まいはそのための貴重な場所である。つまり、〝自分と自然を感じることのできる空間〟が住まいとなる。

 積水ハウスの木造住宅「シャーウッド」のCMは、こう語りかける。

 「私という家。~光も、陰も、風のかたちも、時間の色も、ものたちの位置も、その家はまぎれもなくそのひとでした~」。木造住宅だからこそ、住まいはひとと一体になる。人が木に寄り添うと〝休〟という字になる。木は古来、人間にとって最も身近で優しい素材だからである。

 今こそ、日本人の感性と美学に訴える、感性豊かな住まいの登場が求められている。      (住宅新報顧問)

 

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