いわゆる「住宅すごろく」はすべてが消えたわけではない。今でもアパートなどの賃貸住宅から、いずれは持ち家をという意識は根強く残っている。生涯借家暮らしがいいという人は、まだ少数派だろう。
消えたのは最後の〝上がり〟である。「マンション購入後はタイミングを見て売り、郊外に一戸建てを」という、かつては誰もが夢見た目標があった。しかし今、そのようなゴールを思い描いている人は皆無に近いのではないか。
憧れの郊外一戸建て
それは高齢化や人口減少を背景に、かつては憧れの対象だった〝郊外〟の輝きが失われ、地価の下落も目立ち始めたからである。では「住宅すごろく」の上がりは何かと問われてもはっきりとは見えてこない。いわゆる〝永住型〟というマンションもあるが、40~50年後も本当に安住できるのかは分からない。
このほど発表された「17年版土地白書」によれば、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産と思うか」という問いに対し、「そうは思わない」という回答が調査開始以来最高の42.1%に達し、「そう思う」の31.1%を大きく上回っている。
しかしその一方で、自らが住む住宅については「土地・建物両方所有したい」という回答が79.3%にも達している。88.1%だった96年頃に比べると長期的には下がる傾向にあるものの、いまだに8割近い水準を維持している。
冷静に考えれば、ここには明らかに矛盾がある。特に有利な資産とは思わない土地と、経年と共に老朽化し確実に資産価値が劣化していく建物を所有したいと考えるのはなぜなのか。しかも35年もの長期ローンを組んでまで。
その答えは意外に簡単である。賃貸住宅には広くて良質な住まいが少ないからである。16年度新設住宅着工統計によると分譲住宅の戸当たり平均床面積(共用部分含む)は90.9m2と広いが、貸家の戸当たり平均床面積(同)は46.9m2と半分の広さしかない。
裏を返せば、広くて良質な賃貸住宅が増えてくれば、生涯とまではいかなくても人生の前半は賃貸住宅を選択する人たちが増えてくる可能性が高い。では、広くて良質な賃貸住宅が今後増えてくる可能性はあるのだろうか。一つの注目点が生産緑地の指定期間が終了する22年以降である。
固定資産税の大幅アップを覚悟してでも宅地化を選択しなければならない農家は多いだろう。その際の土地活用策としては賃貸住宅建設が依然として有望だろう。しかし、従来型の単身者や小家族向けの狭い賃貸住宅では供給過剰懸念もあり、長期的に安定した経営が成り立つかという不安が湧く。需給関係からは圧倒的に不足しているファミリー(子育て世帯)向け賃貸にするという戦略も十分あり得るのではないか。
賃貸化する持ち家
もう一つの可能性は、分譲マンションや戸建て空き家の賃貸化である。UR団地の管理などを行っている日本総合住生活はこのほど、千葉海浜ニュータウンにある旧公団が分譲した「稲毛海岸3丁目団地」の空室(間取りは3DK~3LDK)を購入し、リノベーション後に賃貸する事業を始めた。同社は今後こうしたビジネスを全国のUR物件に展開させ、将来的にはサブリース方式も導入していく方針だ。
分譲団地に限らず、今後増加する見込みの郊外戸建て空き家を不動産会社が10年程度の定期借家権で借り上げ、リノベーション後に賃貸するビジネスもあり得るだろう。
その際には4~5年程度の定期借家権で貸し出し、同期間の賃料収入を確定する代わりに賃料割引などのサービスを導入したらどうか。借り手は2年ごとの更新料や更新事務手数料を払う必要もなくなるので、かなりの〝お得感〟を満喫できる。また、一定程度のDIYを認め、借り手がのびのびと暮らせるような配慮も必要だろう。
このように広くて良質な賃貸住宅が市場に登場してくると「住宅すごろく」に新たな〝道筋〟が生まれてくる。アパートなどの借家住まいから一気に分譲マンションに進むのではなく、結婚して子供が生まれたら郊外の分譲マンションまたは戸建ての賃貸に移るという選択である。賃貸だから地価の下落は関係ない。
核家族社会では子供と一緒に過ごす期間は意外に短い。子供が独立し、いずれは子育て期間よりも長い夫婦2人だけの生活に戻る。であれば、それを機に都心にコンパクトな家に住み替えるほうが合理的ではないだろうか。そのときに選ぶ住まいのかたちは人それぞれでいい。賃貸に住み続け投資用のマンションを買うというスタイルも生まれ始めている。業界としての戦略は、多様化する価値観に応えられる多様な住まいを供給していくことである。
団塊世代は、すごろくの〝上がり〟に迷うことなく郊外の戸建て住宅を購入した。しかし今、その家が独立した子供たちからはあまり関心をもたれることもなく、相続発生後には〝お荷物〟としての空き家になりかねない運命にさらされている。
時代は、住宅すごろくの絵図から〝上がり〟を奪った。しかし、ゴールは一つではなくなったからこそ、ゲームとしての面白みは一段と増してきたのではないだろうか。 (本多信博) おわり


















