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スタンダード会員限定明日育つ芽 (16) 「見えない声」 「形」にする技量研け

住宅新報 2017年4月4日 号 11面

連載: あした育つ芽

住まい・くらし
  • あした育つ芽

    1 / 3あした育つ芽

  • 包丁研ぎ

    2 / 3包丁研ぎ

  • 洋服直し

    3 / 3洋服直し

 今年は戦後72年。うかうかしていると、「100年(一世紀)」があっという間に経ってしまう。戦後、日本社会は大きく変わったが、もしその中に日本にとってよからぬ流れもあり、そのことに日本人の多くが気付いていないとしたら……。あと3年でその一世紀の4分の3に達する。その後は〝慣性の法則〟が働くように、後戻りが利かなくなる恐れもある。

迫る〝危機〟

 戦後一貫して流れるいくつかの水脈は、毒か滋養かの見極めが難しい。しかし、そこに根を差し、葉の色、茎の太さに気を寄せながら、日本再生の芽を育てていくしかない。財政と社会保障制度の破たんという国家の危機が、そこまで迫っているのだから。

    ◇   ◇

 筆者が住む町には、駅前と住宅街区をつなぐ細い商店通りがある。しかし、何十年も前から静かな衰退が続いている。空き店舗も多い。昨年暮れには、馴染みにしていた寿司屋が、主人の健康上の理由から店を閉じた。子供は跡を継がないし、主人は継がせたくないとも言っていた。残っているのはクリーニング店、理髪店、和菓子屋、蕎麦屋、酒屋、靴屋などだ。その靴屋だが、店先の看板になぜか、「包丁研ぎ、一本500円より」とある(写真上)。また、クリーニング店の軒先には、「婦人服・紳士服 何でも直します」という札がむなしくぶら下がっている(同下)。昔、地域が活気に満ちていた頃、人々の生活に密着した〝技量〟が売られていたのである。

 これを見てなぜ今、地元不動産屋さんの軒先に「空き家相談承ります」という札が掛かっていないのか不思議に思う。これほど空き家問題がかまびすしいのに。不動産業はもちろん、これからは、〝技量〟を売る商売が繁盛するはずだ。

 実は、寂れる一方の商店通りだが、例外的に新装オープンした店が2軒ある。数年前だが、若夫婦が住居を兼ねた今風のしゃれた理髪店を新築した。もう一軒は東京に本店がある老舗和菓子屋の支店で、旧店舗を先日、全面リニュアルオープンした。2軒とも繁盛しているから、どちらも優れた技量がある証拠だろう。

専門家チーム派遣

 不動産業界にも多様な技量が登場し、それに対応した資格も登場している。定期借地・借家権、賃貸管理、不動産投資、競売、任意売却、住宅ローン、区画整理、生産緑地、サービス付き高齢者向け住宅、シェアハウス、相続・空き家対策等々。細かく専門分野化する不動産業界だけに、一人または一社がオールマイティになるのは難しい。

 ならば、不動産業界が国民の付託に応え、信頼される産業になるためには多様な専門家や会社がネットワークを組み、エンドユーザーからのどのような相談にも対応可能な態勢を整える必要がある。力及ばぬ不動産業者から派遣要請があれば、瞬時に専門家チームを組み立て、現地に送り込む能力をもつ専門機関の創設も検討されるべきだろう。

 戦後、日本社会は大きく変わったと述べたが、最も大きく変わったのは、家督制度の廃止を契機にした個人主義への極端な傾斜である。それに明治維新以来続く官僚主導の中央集権システムが重なり、縦割り・バラバラ・分断社会が形成されていった。

 今、言葉の〝伝える力〟が失われ、ジャーナリズムが衰退し、他人の思想に興味を持てない日本人が増えているのは、そのためだ。あらゆる年代で単身世帯が増え続けているのも、その影響だ。

 「ひとは一人では生きていくことができない」から、滑稽なことに政府は今後、〝お一人様〟対策にも税金を振り向けざるを得ないだろう。 

AIは心を持つか

 そろそろ、新たな価値観・人間観を打ち立てる必要がある。AI(人工知能)が人間の頭脳を超えると、どんな社会が訪れるのか――それさえも、AIに考えさせることができるのだという。バカバカしい話である。人間は機械ではない。生身の寿命がある。限られた一度きりの人生をどう生きるかが最大のテーマだ。それを機械に考えてもらうというのか。AIに人間の哀しみを理解する心が生まれたら脱帽するが、それでも無意識領域まで存在する人の心とは異質なものであろう。

 この、かさついた現代社会に不動産業が果たすべき役割は明らかだ。分断された家族、地域、社会をどうつなげるか、その一点にある。スティーブ・ジョブズはこう言っている。 「人は、はっきりした形になって示されるまで、自分が本当に欲しかったものに気付かない」と。今、人々は本当はどのような地域と暮らしを求めているのか。

 これからの不動産業は顧客の「見えない声」に耳を傾けることである。何とも捉えどころが難しい「空き家相談」から始めてみるのは、時代の要請でもある。 (本多信博)

 おわり

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