日本は現在65歳以上を高齢者としているが、いずれはこれを70歳あるいは75歳以上に変更しなければならない日がやってくる。なぜなら日本経済がこれからも活力を維持し、基礎自治体が財政破たんしないためには、総人口に占める現役世代の割合を一定以上確保することが不可欠だからだ。
例えば、今のように65歳でサラリーマンが定年を迎え、年金受給者になる社会を今後も続ければ現役世代の負担が大きくなり過ぎて年金制度はもちろん、様々な社会保障制度がもたないだろう。
ちなみに今は1人の高齢者を約2.3人の現役世代が支えているが、40年には1.5人で支えなければならなくなるという。現役世代6人で4人の高齢者を支える格好だ。しかも、この計算は現役世代を15歳~64歳としているが、本来であれば20~64歳とするのが実態に近い。数値は更に厳しくなる。
そこで高齢者の定義を75歳以上に変更し、現役世代を20~74歳とすれば、40年になっても現役世代の負担率は現在の水準に留まるという。
たまるストレス
そもそも、現在の男性の平均寿命は80歳(女性86歳)なのだから、65歳で〝老人〟とするのは早過ぎる。しかし、今は多くのサラリーマンが65歳になると会社を追い出され、なすすべもなく無為の日を過ごしている。つまり、現代の高齢者は、自身の健康実態と社会制度の狭間で戸惑いを感じているのである。それが精神的なストレスとなり、うつ病の発症要因にもなっているという。
多くの国民が70歳を過ぎても現役として働くことを前提にした社会的制度設計が実現するまでは、65歳で引退してしまうアクティブシニアとも呼ばれる彼らの精神的老化を防止する手立てが重要になる。NPOワープステイ推進協議会の大川陸治理事長は「前期高齢者(65~74歳)はまだまだ体力もあり、気力も充実している。彼らが生きがいをもって余生を過ごすことができれば、健康寿命を延ばすことになり、それは社会保障費の削減にもつながる」と提唱する。
その、生きがいを感じながら余生を過ごすための具体的な暮らし方として提案しているのがワープステイである。これは、本格的な移住でなく、定期借家で地方に一時的に住居を移し、〝田舎留学〟をするというもの。
「例えば5年間だけ地方に定住し、農林漁業のお手伝いをする。情報と機動力をもった都会の人が、地方に新風を吹き込むことができる。一人の定住期間は限定的でも毎年新たなワープステイ者がやってくれば、都会と地方との人的交流が循環していくので、地方の過疎化に協同して立ち向かっていくことができる」と構想を語る。
生き甲斐は地方に
不動産事業戦略家で、『空き家問題』などの著書で知られる牧野知弘氏も近著『老いる東京、甦る地方』の中で、このワープステイに近い提案を行っている。
「現在都会には企業などを定年退職し、年金で悠々自適の生活を送っている人たちがいます。ところがこの人たちの全員が必ずしもその生活に満足しているわけではなく、毎日の単調さを持て余し、悶々と過ごしている人は意外と大勢います。こうした人たちに一定期間だけ地方を体験してもらうのです」
「彼らは以前、日本の最前線でバリバリ仕事をしていた人たちです。彼らを中長期にわたって招へいし、街の産業、学校の教育現場で働いてもらってみてはどうでしょうか。意外な提案をもらえるかもわかりません」
〝彼ら〟を雇うのは収穫を手伝ってもらう農家かもしれないし、自治体かもしれないが、「都会から人材を刈り取ってくる発想こそ、これからの地方創生には欠かせない」と牧野氏は語る。
原則は限られた期間での地方体験だが、それを機に中には本格的に定住を検討する人たちが出てくることを想定している点もワープステイ構想と似ている。
前出の大川氏は言う。
「ワープステイ運動が進展すれば、地方の定住人口を増やし、田畑、里山を再生し、シニアが元気になり要介護率を低下させ、消費需要も増えるから若者の地方での職場づくりにつながり、出生率の増大を可能にする。つまり日本再生の切り札になる」
いずれは、高齢者の定義を「80歳以上」とする日がくるのではないか。(本多)


















