「人生の最終章を迎え、命の本質を全うするために」と題したシンポジウム(写真)が9月3日、東京・信濃町の慶応義塾大学医学部東校舎講堂で開かれた。
(1)なぜ高齢者施設では寝たきり老人が多いのか(2)なぜ健康寿命の長い長寿社会になれないのか(3)なぜ在宅ではなく病院で死を迎えるのか――など重いテーマが並ぶ。基調講演「平穏死のすすめ」、映画上映「いきたひ」、パネルディスカッションの3部構成。
医師の務めとは
命の本質をテーマに基調講演を行った東京・世田谷区立特別養護老人ホーム常勤医師の石飛幸三氏はこう述べた。 「老いて人生の終焉が来たら、いたずらに延命に励むのではなく、自然な最期を迎えさせるのが医師の務めです。人には体もあれば、心もある。人間らしく人生の終わりを迎える道がある。だからときに、介護は医療を超えるのです」
〝命は地球より重い〟を合言葉に、現代医学が相変わらず鼻から管を入れたり、胃に穴を開けたりして無理に超高齢者を生かそうとする現状は改める必要があると訴えた。
人をみとることの意味を問うドキュメンタリー映画「いきたひ」を制作した長谷川ひろ子氏(フリーアナウンサー、歌手)も、「どう死なせないかではなく、どう生き切るかが大切」と上映前のあいさつの中で語った。
映画は余命半年の宣告を受けた夫にカメラを向け、世を去るまで(宣告から3カ月後)の闘病生活を記録したもの。延命治療を避け、最期まで在宅治療を貫き、家族(妻と4人の子供)との触れ合いを映したシーンが見る者の心を揺さぶる。
第3部のパネルディスカッションに登場した4人のパネリストは全員が医師。全人的(ヒューマニティ)医療の重要性、在宅医療とそれを支える地域包括ケアの実現性、健康長寿に欠かせない〝食〟などをテーマに議論を展開した。現代医療が西洋医学中心から統合医学に向け大きく動き始めていることを伺わせる内容となった。
国の未来を憂う
同シンポジウムは一般社団法人国家ビジョン研究会が開いた。同研究会は日本の将来を左右する重要課題について超党派で問題提起を行っている。代表理事の中西真彦氏はこの日、冒頭のあいさつでこう述べた。
「我が国は今、世界に類を見ない超高齢化・少子社会に突入しようとしている。その中で最大の問題は医療・介護費用の増大だ。それなのに、本人が望まない、病院と製薬会社だけが望む単なる延命のための医療と介護が行われている。そのような、悪しき医療を止めるためには政治を動かし、医師が殺人罪に問われないよう刑法の改正まで踏み込む必要がある」
病院での悪しき治療を回避する一つの方法が自宅での治療・介護だが、それを実現するためには、ハード面でも住まいがそうした機能を保有していなければならない。これからの住まいづくりには、本格的な在宅医療時代を見越した視点が必要となる。
そして、住まいという環境の長い時間軸を考えれば、より積極的に「病気にならないためには、どのような住まいであるべきか」を考えることは更に重要である。
子供の〝食育〟問う
パネルディスカッションに登場した食育の専門家でもある渡邊昌氏は「3歳までの食育が一生の健康に関係している」と話す。幼い頃に家族そろって和気あいあいと食べていたか、それとも一人で寂しく食べていたかが子供の情緒的・情動的成育に大きな影響をもたらし、成人してからの病気の予防と未病に大きく作用するという。
共働き世帯が普通になり、個人の行動パターンが重視されるなど、家族がそろって食事をとる環境が家庭内から失われつつある。 でもだからこそ、家族全員が家にいるときはせめて、温かい雰囲気に満ちた住まいにするための工夫が大切になってくるのではないだろうか。 (本多信博)


















