廣田 信子の紙上ブログ No.268 マンション管理応援歌 安全に暮らしたかった高齢夫婦の落とし穴
住宅新報 2020年11月24日 号 5面

廣田信子氏
5月に都内マンションの機械式駐車場で、72歳の女性が車から降りようとした際に動き出したパレットと通路の間に挟まれて死亡するという事故がありました。この件で、先日、女性が車の中にいたのに駐車場の操作ボタンを押したとして夫が重過失致死の疑いで書類送検されました。夫は当時、酒に酔っていて「覚えていない」…と。
加害者と被害者になってしまったこの夫婦は、一戸建てに住んでいましたが、高齢になったことから、老後を安心安全に暮らそうと2年ほど前に、階段や段差が少ないこのマンションに引っ越したといいます。
亡くなった妻はお気の毒ですが、加害者となった夫も、配偶者を失った悲しみと、その原因が自分にあるという罪の意識で苦しんだと思います。その上、書類送検…、厳しい現実です。
機械式駐車場で事故
機械式の立体駐車場での事故は07年以降、全国で43件に上り、うち8人は駐車場の中にいる状態で機械が作動したために亡くなったものです。
15年に商業施設など不特定多数が利用する立体駐車場には、安全装置の導入が義務付けられたので、センサーが人の動きを感知し、人が中にいる間はボタンを押しても機械が作動しないようになっています。しかし、それ以前に造られた立体駐車場では、今も安全装置がないことが多く、特にマンションの場合、導入に多額の費用がかかることなどから組合員の同意を得ることは難しく、ほとんど安全装置がないままだといいます。
したがって、操作ボタンを押すのは運転者とあらかじめ決めておき、ボタンを押す前に同乗者がいないか確認する等の対策が必要…と言いますが、それは、正常に注意ができる状態であることが前提です。
この高齢ご夫婦の場合、いつもは夫が運転しているのに、お酒が入っているので、妻がハンドルを握っていたのではないかと推測します。泥酔して車を降り、いつもの習慣でボタンを押してしまった…ということは普通に起こりうることです。認知機能が衰えている夫が先に降りてボタンを押してしまうということも十分に考えられます。
老後を夫婦で安心安全に過ごすために引っ越したという経緯を思うと痛ましい限りです。高齢者が車の運転をする危険はこんなところにもあるのです。
(マンション総合コンサルティング代表取締役)
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