鑑定士協連レター 被災地の地価の動き 津波被害の有無で二極化
住宅新報 2012年5月15日 号 10面
連載: 不動産鑑定士レター
年率60%の大幅上昇
11年3月11日の東日本大震災から1年余が経過し、津波による建物全壊区域の土地価格を巡って様々な論議が交わされている。その中で、国土交通省から3月中旬に発表された12年地価公示(1月1日現在)で、被災地である石巻市の住宅地「須江しらさぎ台」が全国トップとなる年間60.7%の上昇率となったことが話題となっている。
宮城県の全用途の価格は4年連続で下落した。平均下落率は1.7%であり、前年より2.1ポイント縮小した。下落幅は震災による住居移転の需要の高まりで圧縮された。津波の被害を受けた場所と、津波の被害を免れたことによる住宅の移転需要がある地域で変動率の二極化が見られたということになる。岩手県の沿岸部においても津波で浸水した宮古市磯鶏沖は、住宅地で最大の10.2%の下落率を記録している。
震災の影響がほとんどなかった秋田県では、地価が上昇した地点は10年連続でゼロ。住宅地は12年連続、商業地は20年連続のマイナスとなった。下落幅は縮小したが、人口減及び中心商店街の低迷を背景に下落傾向が続いている。
東日本大震災がなかったと仮定すると、秋田県ほどではないにしろ、宮城県をはじめとする被災地全体に下落率の縮小があったとしても上昇ということは考えられなかったと思われる。ということは、被災地においては津波の影響を免れた沿岸部の宅地に対して、需要がひっ迫して供給者側の主導により価格が形成されたものと考えられる。
これは石巻市の被災者の中に、特に浸水地域を避け、従来の石巻駅を中心とする接近性、利便性から見ると距離的に遠いところに位置する「須江しらさぎ台」の安全性を中心とする環境を、住居移転の対象と考えた需要が生じたという裏付けでもある。
更に、この区域周辺の不動産取引の価格については、過去の購入時から数年間の右肩下がりで価格水準が形成されていた。そのため、震災前の取引水準が、いわば「下がる前の購入時の水準であれば手放しても良い」という供給者側の考えが主導となり、購入時からの下落の反動が上昇という形で顕在化したものであると思われる。
「須江しらさぎ台」は04年当時の価格が1m2当たり2万2500円であり、その後前年比10ポイント超の下落から7ポイント下落を経て11年1月は0.7ポイントの下落。そして今回、60.7%の上昇で2万2500円となり、04年水準に戻した。
更に留意すべきことは、上昇の結果の取引総額、絶対額である。1m2当たり1万4000円の土地が60.7%上昇して2万2500円となったとして、242m2の画地の総額で見ると340万円の土地が550万円になったということだ。被災地の出物が底をついている状態においては、資金手当てが絶対困難という金額でないということも背景にあると考えられる。
供給再開で沈静か
以上のことから、被災地の復興が進むと同時に、安全であり、利便性の良い場所に売り物が出始めると、やや過熱気味の津波の影響を免れた土地に対する需要も一段落することは、十分に考えられる。地価の二極化は供給が再開し、需要が平準化することによって、落ち着きを取り戻すことになるといえるだろう。
((社)宮城県不動産鑑定士協会、齋藤明)





















