実在する大学病院副院長を名乗る男、相次ぐ挙動不審な言動
店番をしていたら60歳くらいの長身の紳士が来店した。痩せ型で髪は白髪、穏やかで気品ある雰囲気が漂っていた。「大きめの貸家はないかね」と聞く。何でも、自分の家が東京都の文化財に指定されているので改造もままならず不便をしている、とのこと。
それで自分の家は都に管理を任せて自分たちは家を借りることにしたんだとか。そして、「私は今、○×医科大学付属病院の副院長をしているんだよ」と言う。私は20年前、たまたまその病院で腎臓結石の手術を受けている。それで、「泌尿器科医長のN先生はお元気でしょうか?」と聞くと、「ああ、Nちゃんね、私とは昵懇だよ」とサラリと答える。
【本物が出た】
それで信じ切ってしまったのだが、手頃な物件を案内する約束をして、当日、雨の中、客の家まで迎えに行ったのだが、そんな家はどこにもない。聞いていた電話番号に電話したが「現在、使われておりません」であった。私の聞き違いということもあるし、相手は医者である。失礼があってはならない、と焦ったもののどうにもならない。仕方なく帰社して、○×医科大学付属病院に電話すると、本人が出た。と言うより、本物が出た。
聞いていた名前は実在していたし、間違いなく副院長ではあるが店に来た人物とは別人であった。ようやく騙されたと分かった。本物の副院長の話では、過去にも「デパートに『看護婦たちに記念品を贈りたいから』と大量に商品を注文されて届けられたことが何度かあったとか。当社の近くの銀行でも「A銀行に定期預金をしているが対応が悪くていけない。今度こちらに移すから」と言い、最敬礼で見送られたりもしていたようだ。
【種明かし】
その後、取引先の保険会社に行くと、担当者が満面の笑みで迎えてくれたので、聞くと「さっき飛び込みで年配の男性が来て大口契約をしてもらえることになったんで、今月はもうノルマ達成ですよ」と喜ぶ。更に話を聞くと、どうも私の時と似ている。それで、「もしかしてその人、○×医科大学副院長と言ってませんでした?」と言うと「お知り合いですか?」と聞く。種明かしをしてやったが、壁のグラフの薔薇の花は消えることになった。
(坂口有吉不動産・社長)























