小田急不動産 五十嵐秀取締役社長に聞く 1千億円企業へ 総力戦 都心部と沿線の両輪で稼ぐ
住宅新報 2026年6月30日 号 5面

小田急グループ全体で見ると、30年度に営業利益800億円以上を掲げている。そのうち不動産セクターは320億円を担う計画であるが、小田急不動産単体としてグループの成長戦略の中で果たす役割は小さくない。五十嵐社長が重視するのは、まず営業利益である。本業で稼げているかどうかが経営の基本指標だ。営業利益率は10%以上、ROA(総資産利益率)はグループ目標と同水準の5%、有利子負債のコントロールも意識する。拡大一辺倒ではなく、財務規律を保ちながら収益力を高める方針だ。
注目は買い取り再販
では、どの事業で成長を狙うのか。
小田急不動産の事業は、新築分譲、買い取り再販、賃貸、投資開発などにまたがる。
五十嵐社長は、特定の領域に偏るのではなく、各事業をバランスよく伸ばす考えを示す。営業収益1000億円という目標も、一つの大型事業だけで達成するものではなく、複数の事業を積み上げる総力戦という位置づけだ。
もっとも、足元で特に注目しているのは買い取り再販という。都心部では新築分譲用地の取得が難しくなっている。地価上昇や取得競争の激化を背景に、従来型の新築マンション開発だけで成長ストーリーを描くのは容易ではない。そこで、中古住宅を買い取り、リノベーションを施して再販する事業に成長余地を見いだす。買い取り再販は、新築分譲に比べて短期で資金を回転させやすい。グループ会社の小田急ハウジングがリフォーム事業を手掛けられるという点も強みで、買い取り再販の拡大はグループ内の事業機会創出にもつながる。
資材供給の混乱が課題
この買い取り再販事業を伸ばしていくうえで課題となるのが、リノベーション工事のコストと納期だ。中東情勢などを背景に、ナフサ由来の製品であるクロスの接着剤や塗料などの供給に影響が出ている。五十嵐社長は、「一時期はリノベーション事業への影響をかなり心配していた」との心境を明かす。足元では納期の見通しが立ち始め、計画を組みやすくなってきたものの工事内容の見極めはこれまで以上に重要になっている。
そのため、仕入れの判断にもメリハリをつける。フルリノベーションが必要な物件は慎重に見極め、表層的なリノベーションで済む物件を選別しながら仕入れるなど工夫を凝らす。買い取り再販は成長余地がある一方、施工体制や資材調達の巧拙が利益を左右する局面に入っている。
都心でホテルに挑む
もう一つ注目したい成長領域が投資開発だ。小田急不動産では、物流施設にも挑戦してきたが、これに加えて新たにアパートメントホテルの開発に乗り出す。背景にあるのは、インバウンド需要の拡大と中長期滞在ニーズの高まりである。従来型ホテルとは異なり、アパートメントホテルは一定期間滞在する訪日客やビジネス利用者を取り込める。都心部でこうした需要を取り込むことができれば、投資開発の新たな収益源になりうる。初弾案件としては、中央区内で取得したオフィスビルを解体してアパートメントホテルに建て替える。
沿線価値向上は「濃淡」
小田急沿線の価値向上でグループ会社として重要な役割を担う。沿線需要の濃淡を踏まえながら、エリア特性を見極めた事業展開が必要になる。駅周辺再開発への関与は欠かせず、小田急沿線の街づくりに住宅事業として貢献し、沿線全体の魅力を底上げする。これは不動産会社としての収益機会であると同時に、鉄道グループとしての競争力向上にもつながる。
小田急グループにとって最大級のプロジェクトが、新宿駅西口地区開発だ。「新宿は小田急線の起点である。ここが活性化しなければ、沿線全体にも影響する」と述べる。小田急不動産は26年4月、新宿三丁目の伊勢丹近くに営業センターを開設した。これまで小田急沿線を中心に展開してきたが、山手線内側での存在感を高めていく方針だ。
沿線型デベから脱皮
小田急不動産の成長戦略は、特定の一事業に賭けるものではない。新築分譲、買い取り再販、賃貸、投資開発、保有資産の入れ替え、沿線再開発、新宿周辺での営業強化。複数の事業を積み上げながら、営業利益100億円を目指す総力戦である。
ただし、そのハードルは低くない。新築分譲では用地取得難が続く。買い取り再販では資材価格や納期、施工体制が課題になる。ホテル開発はインバウンド需要を取り込める一方、市況変動の影響も受けやすい。借入金を増やしながら成長する以上、財務規律も不可欠だ。それでも、同社には小田急沿線という基盤と、新宿という巨大ターミナルを抱えるグループの強みがある。都心部への展開と沿線価値向上を両輪に稼げるか。
35年頃に営業収益1000億円、営業利益100億円という目標は、同社が沿線型のデベから、より広域で稼ぐ総合不動産会社へ脱皮できるかを問う試金石を兼ねている。





















