知って得する建物の豆知識 417 断熱等性能等級 「燃費」「健康」を左右する指標
住宅新報 2026年3月10日 号 9面
連載: 知って得する建物の豆知識
「夏は涼しく、冬は暖かい家」。家づくりを志す人なら誰もが抱くこの理想ですが、かつての日本では多分に感覚的なものでした。職人の経験や「断熱材を入れています」という言葉だけで語られてきた日本の住宅性能は、今、大きな転換期を迎えています。その中心にあるのが「断熱等性能等級」です。住まいの「燃費」と「健康」を左右するこの指標を正しく理解し、賢く選択しなければならない時代になっています。
長年、日本の住宅性能における断熱等性能等級の最高ランクは「等級4」でした。1999年に制定されたこの基準は、当時は画期的な「次世代省エネ基準」と呼ばれていましたが、欧米のスタンダードから見れば、「薄いアルミサッシと薄い断熱材」という、極めて心もとない性能に甘んじていたのです。
転機は2022年に訪れました。脱炭素社会の実現とエネルギー価格の高騰を背景に、それまで「最高」だった等級4の上に、等級5、6、そして最高ランクの等級7が矢継ぎ早に新設されました。更に2025年4月から全新築住宅において「等級5」の適合が義務化されました。これは、かつての最高基準が「最低限の足切りライン」に変わることを意味します。今、等級4で家を建てることは「既存不適格」に近い家になるというリスクを孕んでいるのです。
断熱等級を理解する上で避けて通れないのが「UA値(外皮平均熱貫流率)」と「ηAC値(イータ・エーシー)」です。「UA値」は建物の内外を隔てる壁や屋根、窓からどれだけ熱が逃げるかを示す数値で、値が小さいほど「魔法瓶」のような保温性能が高い住宅であることを示します。「ηAC値」は日射熱取得率を示す数値です。冬に太陽の光を取り込んで暖かく過ごす一方、夏は強烈な日差しを遮らなければ、どんなに断熱性能が高くても室内はサウナ状態になってしまいます。断熱等性能等級とは、単に断熱材を厚くすることだけを指すのではなく、地域ごとの気候特性に合わせ、建物全体の熱の出入りをいかにコントロールするかを問う指標なのです。
そのため、多くの建築設計者が推奨するのは「等級6」です。その理由は、コストパフォーマンスと健康のバランスにあります。等級6の住まいは、冬場の最低室温がおおむね13℃を下回らないレベルとされています。これにより、部屋ごとの温度差が極めて小さくなり、冬の浴室などで発生する「ヒートショック」のリスクを劇的に低減できます。また、壁や床の表面温度が下がらないため、体感温度が高まり、エアコンの稼働を最小限に抑えられます。建築時のコスト(イニシャルコスト)は上昇しますが、30年、50年という長い居住期間を考えれば、削減される光熱費(ランニングコスト)でその差額は十分に回収可能です。家を単なる「消費財」ではなく「資産」と捉えるなら、等級6は現代における最も合理的かつ標準的な選択肢と考えられます。
ここで一つ、注意すべき点があります。現在の断熱等性能等級には、家の隙間風を示す「C値(気密性能)」の規定が含まれていません。どれほど高価な断熱材を使い、計算上のUA値(等級)を上げても、家に隙間があれば暖気は逃げ、冷気が侵入します。断熱等級を語る際には「気密測定」の実施とセットで考えることが大切です。
住宅の寿命は30年以上です。2030年には、更に基準が引き上げられ、「等級5」以上の義務化も検討されています。私たちが今、どの等級を選択するかという判断は、数十年後の自分たちの暮らしの質、そして環境への負荷軽減に直結しています。
(建築家・中村義平二)


























