業界点望(下) 変革の力、人にあり 人への投資は今こそ
住宅新報 2025年9月30日 号 4面
業界を点で捉えようとするとき、その最小点は一個人となる。未来を切り開こうと各分野で情熱を注ぐ人たちがいる。与えられた任務の真髄に目を凝らす人たちだ。不動産業界の業務は多岐に渡るが、そうした一人ひとりの思いと努力がいずれは業界を変えていく。
新発想〝時間貸し〟
東京・六本木にあった取り壊し予定の3階建てビルを「解体するまでの間だけ」という条件で所有者から賃借し、空いていたフロアに必要な備品をそろえて「1人当たり1時間100円」というキャッチコピーで会議室として貸し出したのが、今や全国に289施設(25年5月時点、ホテルなど含む)を展開するまでに成長したティーケーピーの始まりだ。9月9日、創業20周年記念式典を千葉市の「TKPガーデンシティ幕張」で開いた河野貴輝社長は、「今でこそ遊休不動産を活用した貸し会議室事業は盛んだが、当時は全くの未開拓分野だった。それでも自らポータルサイトを立ち上げ、インターネットで集客。すぐに多くの問い合わせが舞い込み、『ニーズがある』と確信した」と話す。
17年には東証マザーズに上場。20年の間には、料飲やホテル・宿泊研修、イベントプロデュースなど周辺事業の展開を通じて、事業領域を拡大。更に地方創生といった社会的課題の解決にも取り組んでいる。今期(26年2月期)の売上高は約1000億円を見込む。それを将来的には1兆円を目指したいと言う、空間シェアリングの可能性を追求する情熱は今も旺盛だ。不動産を空間と時間で細かく刻むビジネスのパイオニアだ。
宅建士、信頼の源泉
不動産流通プロフェッショナル協会顧問の竹井英久氏(セゾンリアルティ代表取締役会長CEO)は個人間の住宅売買仲介業が確立すべき国民からの〝信頼〟とは何か、その源泉について研究を重ねている。
「日本の風土として、〝信用〟や〝ブランディング〟は会社が担い、個人を重視していない傾向がある。しかし、これからは業務を担当する宅建士個人が国民からの信頼をどう確保していくかという観点が重要になる」と話す。
近年、日本では会社には属さず個人で仲介を行う個人事業主的なエージェントが増えている。そうしたエージェントを抱える「不動産エージェント制仲介会社」の動きも注目され始めた。竹井氏はまたこうも指摘する。
「流通業界が国民の信頼を得るためには、宅建士が不動産仲介営業についての業務独占権を持つことが不可欠。弁護士や司法書士、不動産鑑定士などはいずれも業務独占の資格となっていることが信頼の源泉となっている」
社内起業制度を刷新
近年、新たな成長の芽を探ろうと社内起業制度に力を注ぐ企業が増えてきた。そこでは、かつての単なるアイデア募集制度から脱し、人材育成、社内風土変革にもつなげていこうとする担当者の熱い思いが欠かせない。大東建託事業戦略部の遠藤勇紀氏もその1人だ。20年にスタートした新規事業創出プログラム「ミライノベーター」を今春、「HIRAKU」に刷新した。
それまでは同部が担ってきたが、「スキルの底上げが必要」と感じ、人材育成の観点で新規事業創出研修を実施していた人事部とタッグを組むことを思いついた。
この5年間で累計応募件数は約1200件にも上り、ペット共生賃貸に暮らす人に向けた保証事業や自主管理大家の支援事業などが新事業として生まれている。今年度は、応募前に新規事業立ち上げ経験者を講師に招いたセミナーや研修を数多く実施したことで、応募件数は昨年の2.5倍にも伸びた。
遠藤氏は、「新規事業創出そのものだけではなく、その過程で得られる経験や知識に大きな価値がある。たとえ新規事業として世に出なかったとしても、その人が経験を生かし10年後に当社で大きな成果を出す可能性がある。長期的な人的資本への投資でもある」と「HIRAKU」の今後に意欲を燃やす。
◇ ◇
不動産業界は今後、人口減少という難局に乗り出していくことになる。「時間貸し」を超えるような更なる新発想も必要だ。宅建士に業務独占を与える法改正への道のりは更に遠い。しかし、それを誰かがリードしていかなければならない。社内起業制度の真髄は長期的人的資本との指摘は、全ての変革の力は人にあるということだと思う。(井川弘子)























