知って得する建物の豆知識 406 沖縄型建築の知恵 自然を敵とせず
住宅新報 2025年9月2日 号 9面
連載: 知って得する建物の豆知識
沖縄を訪れると、赤瓦の屋根や低く構えた住まいが目に飛び込みます。強い日差しと湿気、そして台風という厳しい自然環境の中で「沖縄型建築」という独特のスタイルをを育んできました。そこには自然を敵とせず共に生きるための知恵が凝縮されています。
まず象徴的なのが赤瓦の屋根です。本土の瓦より厚く焼かれた赤瓦は重さがあり、台風時の強風に耐える性能を持っています。屋根の棟や四隅に据えられる「シーサー」も忘れてはならない存在。魔除けであると同時に、家と自然をつなぐ守護神として、自然との共存を表す精神的なシンボルといえます。
また、家屋は開口部を大きく取り、縁側や「雨端(あまはじ)」と呼ばれる半屋外空間を設けることで風を巧みに取り込みます。冷房がない時代でも通風と日射調整によって快適な環境をつくり出してきました。石垣や「ヒンプン」と呼ばれる目隠しの壁も特徴的で、視線を遮るだけでなく、風を和らげる工夫が凝らされています。
戦後になると、耐火性や耐風性を求めてコンクリート造の住宅が主流となりました。一見、伝統と相反するように見える白いコンクリート建築ですが、屋上を広場のように利用する生活スタイルは、むしろ風土に順応した進化形といえます。近年では赤瓦を載せたり、シーサーを据えたりと、現代建築の中に伝統的要素を再び融合させる試みも広がっています。
その流れを象徴するのが、1970年代に建設された「名護市庁舎」です。吉阪隆正門下の大竹康市と樋口裕康、富田玲子、重村力、有村桂子の5名によって結成された象設計集団がコンペで優勝し、実施設計を手掛けました。鉄筋コンクリート造でありながら、屋上に植物を植え、壁に花ブロックを用いることで、通風と環境調整を実現しています。市民が自由に出入りできる開放的な設計は、役所というより「みんなの家」に近い存在感を放っています。
1981年に日本建築学会賞(作品)を受賞し、高い芸術性と設計思想が支持されています。DOCOMOMO Japan(モダン・ムーブメント保存の国際団体)にも選定され、地域の風土に根ざしたモダン建築の代表作として再評価もされました。また、名護市庁舎は当時の設計コンペのあり方に一石を投じた「日本の建築史における理想的なコンペの成果」としても語られており、公平性と地域的意義の両立を重視した設計プロセスが高く評価されています。
「アサギテラス(アサギとは神様が降りてくる広場の意)」と呼ばれる柱だけの中間的空間や花ブロックのスクリーン、風通しの良い開放的な動線設計など、地域の気候や伝統に根差した知恵が随所に施されていますが、これが裏目に出て2014年度に行われた耐震診断では、建物全体に倒壊または崩壊のリスクがあるとの評価が出ており、安全面に重大な懸念があることが明らかになっています。この結果を受けて、市では新庁舎の移転・建て替えを推進中です。
名護市庁舎は、単なる行政施設を超え「沖縄らしさ」と「現代建築」が融合した傑作として今も高い評価を得ています。その背景には自然への畏敬と知恵、そして文化を守り継ぐ人々の営みが息づいています。とはいえ、安全・耐震・維持管理の現実的な課題も見逃せません。その中で、市民や専門家、多様なステークホルダーの声を反映しながら、保存と再利用、新築の必要性をどう調和させるかが問われています。
(建築家・中村義平二)


























