不動産学の魅力 「不動産を動かす」 キープ&チェンジ時代の曳屋 明海大学 不動産学部 第64回
住宅新報 2025年8月26日 号 7面
「曳屋」とは、建物を解体せずにそのままの状態で移動させる建築工法である。私が「曳屋」を初めて知ったのは、テレビ番組で古民家再生プロジェクトを見たときだった。建物は不動産、つまり土地に定着するものだと理解していた私にとって、「建物を動かす」という技術は、発想自体が衝撃だった。後日、東京建築祭に出かけた際、神田にある「学士会館」を見学し、都市計画道路の拡張工事に伴い曳屋される予定だと知った。比較的軽い木造古民家ならまだしも、重厚なSRC造の大規模建築まで移動可能であることに、技術の幅と応用性を改めて認識させられた。
また、都市計画の授業では、曳屋が江戸時代から存在する伝統技術であること、そして古民家や文化財といった歴史的建造物に限らず、土地区画整理事業において普遍的に用いられていることを学んだ。それまで、曳屋は特別な建物の保存手段だと思っていたが、都市整備の一手法として一般住宅にも適用されてきた実績があるという。
今日、建築業界は「スクラップ&ビルド」から「キープ&チェンジ」へと価値観を移しつつある。曳屋は、まさにそうした時代の流れに合った技術だと感じている。また、日本人が持つ「もったいない精神」との親和性も高く、文化的な側面から見ても意味のある手法ではないだろうか。ただし、曳屋には移動経路や一時的な空き地が必要で、既成市街地では容易に実施できないという制約もある。学士会館の事例でも、隣の街区と一体になって再開発することにより、建物保存のための曳屋が実現した。このような制約が、高度経済成長期には全国で盛んだった土地区画整理事業が下火になった一因とも考えられる。
























