知って得する建物の豆知識 382 ノルディックデザイン 明るい色合いで空間を広く見せる
住宅新報 2024年7月16日 号 9面
連載: 知って得する建物の豆知識
北欧の国という定義には様々ありますが、ここでは最も狭義のフィンランド、スウェーデン、デンマークとしておきます。これらの国々のインテリアや建築デザインを総称して「ノルディックデザイン」と呼びます。また、諸国はドイツ文化とロシア帝国の政治的な影響下、併合や分割・割譲を繰り返して来ました。
北欧の産業革命は西欧諸国への木材(ホワイトウッド)供給地として発展した点が特徴的です。他の諸国のように繊維産業が中心ではなく、木材加工技術が産業革命を牽引したのです。
1900年初頭には、ヨーロッパは産業革命が終わり、飛躍的に工業製品の生産力が高まりました。巷には粗悪なデザインの製品であふれていたため、手仕事の意味を見直し、誠実で実直なデザインを求める「工芸運動」が、ヨーロッパ各国で起きました。英国では「アーツ&クラフツ」、ドイツでは「ユーゲントシュティール」、フランスではアール・ヌーヴォーと呼ばれ,確固たるデザイン思想を形成しますが、第一次世界大戦が始まった1914年には終焉し、ドイツの「バウハウス」を中心に、国民性や地域特性に依存しないインターナショナルスタイルへと転化しました。今日、私たちがモダンデザインと感じるものは、このインターナショナルスタイル(デザインにおけるグローバリズム)の延長上にあります。この合理的なモダンデザインの波は北欧にも押し寄せ、例えばサーリネンのナショナル・ロマンティク様式に立脚したヘルシンキ中央駅のデザインは、モダン派建築家フロステルスなどから強い批判を浴びました。
一方、モダニズムの機能性と美しさを理解した、グンナール・アスプルンド(1885~1940 Sweden)、アルバー・アールト(1896~1976 Finland)、アルネ・ヤコブセン(1902~1971Denmark)、ハンス・ウェグナー(1914~2007 Denmark)などが次の時代を牽引していくことになり、この動きが「ノルディックデザイン」の中核になりました。共通する特徴としてインテリアや家具にはオーク、ブナ、白樺、パイン、アスペンなど、良質な木材が使われます。また、素地、白やグレーなど、明るい色合いが多く用いられ、空間を明るく広く見せるように工夫されています。
ノルディックデザインは建築デザインというよりは、家具やテーブルウェアと言った、庶民が手に入れやすい生活材を通じて、西欧諸国、特に大消費地である米国へ広がります。例えばハンスウェグナーの傑作椅子PP503は、ケネディに推されたことで1960年のニクソンとの大統領選挙時、世界で初めて行われたテレビ討論会に使用されました。この結果、PP503は一躍注目を浴び、米国民のノルディックデザインへの関心を高めます。だた、現在のバイデン(左派)とトランプ(右派)の対立と同じく、英国調のゴツいクラシックデザインを愛する右派は、ノルディックと聞くだけで眉を顰めたそうです。
その後のノルディックデザインの隆盛はご存知の通りですが、1950年代から60年代のデザインのままに、時代だけが過ぎて行き、永遠の名作という古典的な位置付に甘んじ、後継デザインが欠落しています。多くのメーカーは工場を失い、ブランドは転売され、好事家のコレクターズアイテムになっているものが少なくありません。また、版権の切れたデザインはジェネリック家具という名の劣悪コピーが中国や東南アジア方面から出回り、広く流通しています。
(建築家・中村義平二)


























