紙上ブログ不動産屋の独り言620 賃貸現場の喜怒哀楽 坂口有吉 母親を介護していた入居者 人生はなんとも不平等
住宅新報 2021年9月21日 号 6面
当社の入居者で、不幸を絵に描いたような女性がいる。3姉妹の長女で、母親と同居していて、下の妹2人はそれぞれに家庭を持って子供にも恵まれ幸せに暮らしているのだが、15年ほど前から母親が難病になり寝たきりになると、介護は長女の役割となり、勤めていた会社も辞めて介護に専念することになった。買い物などの用事以外で外出することもなく、ずっと母親に付き添っていて、妹たちは連絡もよこさない。アパート暮らしをしているのだから不動産などの資産もなく、母親の年金だけが頼り。
ランチに誘うも
妹たちは近くに住んでいるが、母親の様子を心配して訪ねてくることもない。長姉に任せっきりで一昨年に母親が亡くなった際も線香の一本も上げに来なかったことで、長女は心を病んでしまった。彼女の窮状はよく分かっていたので、私は数年前から「もし何かの用事で当社の近くに出掛けることがあったらランチでもしましょうか」と誘っていたのだが、「お気持ちはうれしいのですが、私はレストランなんかで食事をすると緊張してしまうので行けません」と言う。元々が誰に対してもものすごく気を使う人で、「じゃあ大丈夫そうになったら一緒に行きましょう」と話し、それ以降は、近所まで行った際にお菓子を届けるようにした。彼女からすれば、誰かが気にしてくれている、分かっていてくれる、ということが何よりも治療薬になるだろうから。























