不動産市場異聞 大東建託賃貸未来研究所・AIDXラボ所長 麗澤大学経済学部客員教授 宗 健 第48回 DXでは〝結果にコミット〟求めるな
住宅新報 2021年7月27日 号 7面
連載: 不動産市場異聞
前回はDXには組織風土が重要であることを書いた。DXについては普通の仕事とは全然違った組織風土が求められる。その一つに、「DXでは結果にコミットを求めてはいけない」というものがある。結果にコミットを求めないなんてナンセンスだ、という意見がほとんどだろうと思うが、その意味を少し考えたい。
システム開発は
できることをやる
これがDXとシステム開発の本質的違いになるが、どんなシステムでもできるかどうか分からない開発は行わない。
システム開発とは成功することが前提であり、結果にコミットが求められる。そのため開発スコープの特定や仕様策定、スケジュール管理等のプロジェクトマネジメントが重要になる。
そして、投資額も銀行の基幹システム更新のような場合には、数千億円という規模になることがあり、不動産の領域でも数億規模の開発プロジェクトは珍しくない。そのため、投資判断のために時間と人材をつぎ込み、数千枚のパワーポイントを作り、数百回の会議を経て実現可能性をじっくりと検証することもある。しかし、DXは必ずしもそうではない。
最も大切なのは
起点となるアイデア DXの定義を「データとITを使いこなし新しい価値を生み出す」とすると、最も大切なのは、起点となるアイデアである。そして、そのアイデアを生み出すのに、こうすればよいという公式的な手法はない。そのため、アイデアというのは、極めて属人的であり、アイデアを生み出す「ひと」を大切にしなければならない。
そして、そのために最も重要なのはアイデアに対してコミットを求めてはいけない、ということである。
少し考えれば分かると思うが、アイデアの数を出すことや、アイデアの実現性についてコミットを求められた瞬間に、アイデアは陳腐化し、実現可能なものに矮(わい)小化されていく。できるかどうか分からないというアイデアにこそ大きな価値がある可能性があり、その意味でコミットすべきなのは「自由にやる」というプロセスそのものだろう。
そして、アイデアを生み出すためには、不動産業界では特に、同業他社やアカデミック、行政やNPOなどとの多様なネットワークが必要で、そうした活動に対してもある程度の経費を負担する必要があり、勤怠管理にも自由度が必要だろう。
更に、アイデアを検証するために調査を行ったり、データを購入したり、分析を外注したり、小さなシステムを構築することもあるだろう。そのとき、平均的な処遇で、細かく予算・日程を管理し、結果が出なかった場合に、評価を下げるといったことが行われれば、確実にアイデアを生み出す優秀な人材は離れていく。これが人材獲得競争の本質でもある。
アイデアの検証と実現は別プロセス
アイデアを生み出し、検証するプロセスを経てやっと実現を目指すものが特定されたら、そこからは普通のシステム開発となり、コミットは復活する。
その意味で、結果にコミットを求めてはならない、というのは研究開発の視点であり、実現プロセスの話ではない。ただし、DXにおいては研究開発として考えたとしても成功率が定かではないというところにマネジメントの難しさがある。
しかし、そもそも「データとITを使いこなし新しい価値を生み出す」試みは、昔から行われてきた。それが、最近はたまたまDXというバズワードで説明されているに過ぎない。
そして、新しい価値を生み出してきた組織・企業には、自由な組織風土があり、その背景には収益性の高い強力なビジネスモデルがあることが多い。どちらが先かは分からないが、強力なビジネスモデルと組織風土の両立という難しいことが要求される時代なのだろう。
そうたけし‥87年九州工業大学卒、リクルート入社。リクルートフォレントインシュア社長、リクルート住まい研究所長を経て現職。筑波大学博士(社会工学)・ITストラテジスト

























