紙上ブログ 不動産屋の独り言 570 賃貸現場の喜怒哀楽 坂口有吉 史上最悪の条件に思案 生活保護目指し入居審査へ
住宅新報 2020年9月22日 号 6面
当社が管理するアパートに問い合わせが入った。電話で話をすると、入居には厳しい属性であることが分かった。問い合わせしてきた客は現在妊娠6カ月。他に子供はいないとのことで、入居するのはこれから生まれる予定の子供と本人の2人。子供の父親である男性が一緒に暮らさないのは不思議だが、妊娠が分かる前に別れたのか、そもそも入籍しなかったのか、電話の時点では知らされていない。
コロナの影響で退職したので現在は無職、つまり収入がない。今は友人のアパートに転がり込んでいて、猫が1匹いるという。「物件を見たい」ということで、現地で待ち合わせをして内見してもらうことになった。
親とは絶縁
自転車で来たその女性はしっかり挨拶もするし、普通の雰囲気の26歳。案内した部屋の中で雑談を交えながら話を聞いていくと、ますます入居には厳しい条件が出てくる。親とは絶縁し、連帯保証人はおろか保証会社の緊急連絡先になってくれそうもない。敷金礼金ゼロの物件なのに、すぐに契約金が用意できない。
生まれてくる子供の父親は、彼女より4歳年下で、妊娠発覚直後に他の女性のところに行ってしまったという。養育費は払うと約束しているが、まったく当てにならない。彼女自身が数年前に自己破産しているため、保証会社の審査も通らないだろう。何より無職で収入がないのだから、生活保護でなければどうにもならない。
仲介料を待っても
役所に行くと「先に部屋を見つけてください」と突き放されたとか。ずっと友人宅に居候しているわけにもいかず、当社に来たという。私が「他の不動産会社に行ってくれ」と言えば、乳児を抱えたままホームレスになるかもしれない。男を見る目がなかった自己責任だと思うが、仕方なくこう提案した。
それは、家族の中で唯一付き合いが残っていて定職に就いている妹と暮らすことにして審査を通し、生活保護が認められたら名義の書き換えをするというもの。契約時に契約金が全額そろわないが、当社が仲介料を待てば何とかなると思うと伝えた。だが、生活費も必要だから1日も早く保護決定してもらうしかない。それでダメならもう部屋は借りられない。ここから先は私の仕事ではない。 (坂口有吉不動産・社長)























