寿司屋の湯呑みには魚についての漢字が模様のように書かれているものがあります。歴史的に身近な事象には多くの言葉があり、魚に関する漢字が多いのもそれを物語っています。木についても魚に負けないほど多くの漢字があり、木造文化を伝承してきた日本ならではと思われます。木偏のついた文字はざっと調べるだけでおよそ300字(JIS第1水準・第2水準)ほどもあります。このうち半分は木そのものの名称、残り半分は木で作られたモノの名称です。
まずは木の難読名称から。「杤」は「とち」とよみ、栃木県の「栃」と同じ「とちのき」のことです。比較的大木に育ち、キメの細かい材質から、高級木材としてテーブルや造作材に使われます。「枋」は「ホウ、ヘイ」と読み、マメ科の落葉低木です。枋の一種「蘇枋(すおう)」の花は染料として使われ、黒みを帯びた赤色を「蘇枋色」と呼びます。「枳」は「キ、シ、からたち」と読み、ミカン科の落葉低木です。島倉千代子の「からたち日記」は昭和世代の方には懐かしい名曲です。
「柞」は「サク、ははそ」と読みます。「ははそ」は樹種で言えば「こなら・くぬぎ・みずなら」などの総称です。「みずなら」はドングリを実らせ、縄文時代から貴重な食料になってきました。有名な新潟県の火炎土器はドングリのあく抜きをする調理用具という説もあります。建築用材としては加工性・着色性に優れ、強度が大きく、重厚感がため高級家具、無垢ドアなどに利用されます。北海道産は良質とされ、人気の国産ウイスキーの熟成樽としても利用されています。
ニシキギ科の落葉低木が「檀」で「ダン、タン、まゆみ」と読みます。夭折した建築家・宮脇檀氏は住宅、商業建築の名手で、VANジャケットとの関わりも深く「ダンさん」の愛称で親しまれましたが、正しくは「まゆみ」です。ご本人は女子のような名前を嫌がっていました。木偏で最も画数の多いのが「欖」です。読み方は「らん」で、橄欖(かんらん)はモクセイ科の常緑高木でオリーブの一種です。
ここからは道具の名称です。「枹」は「ホウ、フ」と読みますが、道具としての名称と樹種が同じです。樹種としてはブナ科の落葉高木の総称である「ホウの木」で、これで作られる代表的な道具が「太鼓の達人」でもお馴染みの「バチ」です。「ホウ」とも「バチ」とも読みます。
「榻」は「トウ、しじ」と読みます。元は牛車の軛(くびき・牛が引っ張る棒)を牛がいないときにも水平を保ち、乗り降りを容易にするための台を意味していました。これが転化して仏教の高僧が座る椅子の足乗せ台を「禅榻(ぜんとう)」と呼ぶようになり、さらに長椅子や寝台をも意味するようになりました。金閣寺には「貴人榻(きじんとう)」と言う石の腰掛が残っています。「檣」は「ショウ、ほばしら」と読みます。「ほばしら」は帆船の帆を張るための柱で、船の重要部品です。檣頭はほばしらのてっぺんを指し、「檣頭たかく掲げた」という言い方は目標を達成するための表現などに使われました。
「桷」は建築に馴染みのある部材で「ズミ、たるき」と読みます。「たるき」は垂木とも書きますが、屋根構造の母屋(もや)と直交する構造材で、野地板と屋根材を支えます。
木偏や魚偏の文字はそれに関わる人たちが創り出した当て字が多く、文字を見るだけで一定の意味の伝わるものが少なくありません。最後に、次の樹木に関する文字はなんと読むかお分かりでしょうか。「棔」「栩」「椣」「槲」「椈」「欅」「椛」。
解答は「ねむのき」「くぬぎ」「しで」「かしわ」「ぶな」「けやき」「もみじ」です。
(建築家・中村義平二)

























