紙上ブログ 不動産屋の独り言 551 賃貸現場の喜怒哀楽 坂口有吉 人がいいにも程がある家主 再び 徹底した配慮、誰にでも等しく
住宅新報 2020年5月5日 号 6面
私も相当に面倒見がいいほうと思っているが、家主のAさんにはかなわない。普段は「ハートのない家主」を痛烈に書いている私だが、中にはこういう素敵な家主もいるという話だ。
入居者のため賃下げ
本来、家主がアパート経営をする理由は、老後の生活資金を確保するためや税金対策など。そのAさん、貸家を3軒とアパートを2棟、それに4世帯のテラスハウスを1棟所有していて、どの部屋も相場より家賃が安い。それでも、それぞれの入居者が更新のたびに「新家賃をどうするか」と確認すると、「少し下げましょうか」と答える。「あの部屋はお子さんが生まれたので、生活がきつくなっているでしょうから」や「みんな、この家賃を払うのは大変だろうから」と言う。しかし、そもそも入居者は「払える」と判断して申し込みを入れているのだ。後で苦しくなっても向こうの事情でしかない。
しかし、Aさんの対応はこうだ。例えば、内緒でノラ猫に餌やりしている住人に注意を与えながら、その一方で「あんたも餌代がかかって生活がきついでしょう」と生活費を援助したり、大工に頼んで敷地内に猫専用のトイレをつくったりした。介護していた母親が亡くなった入居者には「今月の家賃はいらないよ」と家賃の免除をして、翌月からの賃料を2万円下げるなど、枚挙にいとまがない。それは、入居者に対してだけでなく、管理会社やリフォーム会社に対しても同じである。
更新料の辞退も
前述の母親を亡くした入居者が更新を迎えた際、「更新料はいただかないでください。坂口さんの分はうちでお支払いしますから」と言う。私は「それはいけません。いつも過分にお心遣いをいただいています。Aさんが受け取らないのに私の分を負担してもらう訳にはいきません。うちも結構ですよ」と言うと、「それは困ります。仕事なのだから、きちんと受け取ってください」と譲らない。仕方がないのでいただくことにしたが、盆暮れにはデパートの共通商品券をいつも送ってくれるし、何かでお返ししないと心苦しい。もちろん仕事で役に立ってお返しできるのが一番だが。下請け業者への配慮も行き届いているから、苦労人なのだろう。こんな家主ばかりなら、当社も蔵が建つのだが…。 (坂口有吉不動産・社長)























