建築物を見るときの鑑賞法の一つとして「ディテール(部材の納まり)に神が宿る」ので「ディテールを見よ」という意見があります。華やかな空間や高価な仕上げ材にではなく、ディテールにこそデザインの本質があるというワケです。
それでは「ディテールの本質とは何か」というと、それは「変形しようとする力をいかに逃すか」ということです。建物には地震や台風などの外力が常に加わり、部材や接合部を変形しようとします。また、熱による膨張や収縮も繰り返し加えられる変形の力です。こうした「変形しようとする力」を合理的に逃すのがディテールの設計です。これは多くの建築家が言うことですが「平面図や立面図よりも詳細図を見る方が、それを設計した建築家の意図や力量がはるかに分かりやすい」と言う意見です。筆者も、詳細図を見ていて飽きることがありません。「図面を読む」とはこのことだと思いますが、そのポイントの一つに「誘発目地(ゆうはつめじ)」があります。
誘発目地は変形しようとする力を逃がすための工夫です。主にコンクリート打ち放し仕上げの壁面などの、ひび割れ防止に用いられます。コンクリートは水和作用によって硬化します。そのため一定の水分を含んでいるので、乾燥や温度変化による内部歪みが発生しやすく、常にクラックやひび割れ発生の可能性を持っています。
パネルやタイルなどで仕上げられる場合はあまり問題になりませんが、打ち放し仕上げでは美観の劣化や耐久性の低下に直結します。しかもひび割れがどこに発生するかの予測は不可能なので、予め特定の場所に発生するように誘導するのが誘発目地です。誘発目地は図のように台形断面の目地を通し、目地底には鉄板を埋め込んでクラックを誘導します。なぜ誘導されるかですが、これは「応力集中」が起きるからです。
物体に力が加わると、加わった力と同じだけの力が内部に発生します。この内部に発生した力を応力と言いますが、発生する力は物体内部に均一に発生するのではなく、力が加わった方向や場所、物体の形状に影響を受け、偏って発生します。特に穴、段、屈折部など、形状が変化する部分で応力が大きくなります。穴で言えば周辺線部分が、L型の棒状物体では直角に曲がっている接線部の応力が最も高くなります。例えば、コピー用紙の左右を持って、そのまま左右に引き裂くと、複雑な曲線で裂けてしまいますが、真ん中を一回だけ折ってから左右に裂くと、直線的に裂くことができます。これは折った部分の繊維が変形し、そこに応力が集中するからです。応力はまるで意志があるかのように、その物体の弱い部分に集中するのです。コンクリート内部が不均一であったり、気泡やジャンカ(砂利が不均一な部分)があるとこから破壊が始まるのは、そこに応力集中=脆弱性が発生するからです。
この脆弱性を予め設計段階で仕込んでおくのが誘発目地です。応力集中を誘導して、躯体内部で発生した歪みを逃す工夫です。通常、誘発目地は3メートル前後ごとに設けることが多く見られます。これはコンクリートの垂直方向の打ち継ぎが階高に依存していることからです。水平方向は型枠の単位や意匠との兼ね合いを考慮しながら決めます。
しかしながら、意匠的に打放し面に縦横の「線」のない方がよいケースがあります。こうした場合には躯体内に積極的に不均一部分を発生させ、応力を逃がします。具体的にはモルタルを充填した塩ビパイプ、鉄棒、特殊鉄筋などを埋設して内部的に誘発目地と同じ効果を発生させます。
(建築家・中村義平二)

























