古典落語のネタに「子ほめ」という演目があります。少し頭の弱い熊公が他人のことを褒めて、酒の一杯にもありつこうという算段で、ご隠居に他人の褒め方を教えてもらいます。にわか勉強のまま八つぁんの家に出かけ、赤ん坊を褒めて大失敗するという噺です。
「生兵法は大怪我のもと」というワケですが、不動産販売の現場では「クライアント褒め」も大切な営業トークの一つです。意味なく褒めるのではなく、ライフスタイルについて「褒められる=理解されている」というイメージが大切です。たとえそれが断片的であっても、口にすることで、相手の安心感や信頼感の醸成につながることが少なくありません。特に、高額物件のクライアントであればあるほどこの傾向があります。
世界の三大ピアノ そうした富裕層の所有率が高いと言えば、グランドピアノです。スタインウェイ&サンズ(1820年)・ベヒシュタイン(1853年)・ベーゼンドルファー(1828年)、すなわち世界の三大ピアノがよく選ばれています。
スタインウェイとベヒシュタインはドイツの会社、ベーゼンドルファーはオーストリアの会社(現在はヤマハのホールディングカンパニー)です。販売台数は圧倒的にスタインウェイが多く、スタジオやホールの常設ピアノはほとんどがスタインウェイです。また、プロピアニストへの登竜門として知られるポーランドの「ショパンコンクール」でも、最終審査の演奏で選ばれるピアノはスタインウェイが圧倒的です。ちなみに同コンクールでは、新興勢力としてイタリアの「ファジオリ」が台頭してきましたが、最終審査の演奏で選ばれることはないようです。日本の「Shigeru Kawai」も話題にはなりますが、ファジオリ同様、最終審査の舞台には上がっていません。
音響的に筆者の好みは低音と高音がシルクのように美しいベーゼンドルファーです。機構的には倍音が豊富に響くピアノです。
同社は建築家やデザイナーとのコラボによって、意欲的なモデルを造ることでも知られています。古くはウィーン工房の立役者ヨーゼフ・ホフマンやヨーゼフ・フランクなどによってデザインされ、最近ではオーストリアを代表する現代建築家ハンス・ホラインによってデザインされたピアノが製造されました。
03年にはポルシェデザインと手を組んで全く従来の素材やデザインにとらわれない斬新でモダンなピアノが製造されました。ポルシェデザインは自動車のポルシェ社から独立したデザイン会社で、現代ドイツを代表するデザイン会社です。ポルシェデザインのベーゼンドルファーはユニークな工夫が多く見られます。
まず目を引くのは大屋根と呼ばれるふたの部分です。通常、ふたはピアノ本体より一回り大きく、はみ出した形状になっていますが、ポルシェデザインはインセット、つまり本体の内側に落とし込まれています。これは大変な精度を要する収まりで、溝がカーブを描きながら一定の幅を維持する必要があります。これは車のドアの収まりと同じです。脚部やペダル廻り、音響調整板などにはアルミの鋳物や削りだしが使われていて、見ていくほどに「イグニッションスイッチはどこにあるのかな」という気分になります。
さて、実際のポルシェデザインの音ですが、見た目ほど固い音ではなく、豊かな低音部とベーゼンドルファー独特の倍音に彩られた音色は、どちらかと言えばジャズやポップスに向いているようです。
(建築家・中村義平二)

























