知って得する建物の豆知識 126 新国立競技場の設計案 〝異様なスケール〟に批判 「エコ&コンパクト」から乖離
住宅新報 2013年12月10日 号 7面
連載: 知って得する建物の豆知識

新国立競技場のデザイン
『おもてなし』の心で誘致したはずの2020年東京オリンピックですが、その中心施設である新国立競技場が、様々な議論を呼んでいます。誘致の中心人物である都知事の金銭トラブルも伝えられています。
コンペにまつわる批判や憶測は昨年から噴出していましたが、今年8月に建築界の大御所・槇文彦氏がJIA誌に批判論文『新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える』を特別寄稿したことで、問題点が一気に表面化しました。
力学的、金銭的に難
新国立競技場を設計するのは、以前本欄でご紹介したイラク人の女性建築家、ザハ・ハディッド氏です。ハディッド氏は構造主義を否定した脱構造主義(デコンストラクティビズム)の旗手ですが、その手法は斜めの線や曲面を多用した有機的な形態が特徴で、新国立競技場の設計案も、大きく張り出した宙に浮かぶような空間デザインです。
しかし、こうした形状は建築構造が複雑で、実現には大きな力学的困難が伴います。建築コストも高額になりがちです。実際に主催者側は、延べ床面積29万m2という五輪史上最大のメーンスタジアム建設に対して1300億円の予算を想定していましたが、ハディッド氏案には3000億円が必要という試算も出ています。『コンパクト&エコ』という理念は、どこかに吹っ飛んだ格好です。
槇氏の批判もこの点を突いており、「美醜や好悪を超えて、スケールがあまりに巨大だというのが私の第一印象だった」と述べています。隣接する東京体育館の設計者でもある槇氏は、異様なスケール感を直ちに感じたとのことです。
通常、こうした巨大建築物を街区に設計する場合は、必ず広範囲な街区模型を製作し、そこに設計案模型を落とし込み様々な検証を行いますが、今回のコンペでは要求された4枚のパース(透視図)のうち1枚しか外観には割り振られておらず、模型の提出もなかったようです。スケール感の検証は難しかったのではないでしょうか。
都市計画、防災の視点は?
また、コンペ案のデザインを左右する設計要求プログラムも内容が希薄で、そのうえ「敷地も広くないところでその10倍の施設を作ることは完全なミスマッチだと感じ」、槇氏は応募を見合わせたとのことです。
更に、設計要求にはIOCがメーンスタジアムに求める8万人の観客席も盛り込まれています。オリンピック開催時の17日間だけ対応できればいいのですが、ハディッド氏案では固定席として提案されています。新国立競技場の3分の1の規模しかないロンドンオリンピックのメーンスタジアムは、8万席の60%以上を仮設席で対応しました。
都市計画、防災などの専門家不在のまま設計要求プログラムが作成されたことや、コンペの選考過程の報告書が公表されないことなど、今後も問題山積の新国立競技場と言えそうです。
(建築家・中村 義平二)























