点検 不動産投資 宮城大学事業構想学部教授 田辺信之 「環境と不動産」シリーズ(5) ER土台に環境不動産が伸展 イー・アール・エス代表取締役副社長兼エンジニアリング部長中村直器氏に聞く
住宅新報 2013年10月8日 号 5面
連載: 点検 不動産投資
環境リスクの動向などを、エンジニアリング・レポート(ER)の視点からイー・アール・エスの中村直器代表取締役副社長に話を聞く後半。CASBEE不動産検討小委員会メンバーとしても活躍する同氏に、ERの実績を踏まえて、環境不動産の展望などを聞いた。
――一定の環境整備がなされたものの、アスベストや土壌汚染については実務上の問題も残っているようです。
中村氏 アスベストは1950年代後半から1960年代にかけて建材として多く利用されていた経緯があり、現在それらの不動産が取り壊しや再開発の時期にちょうど差し掛かっている。アスベストの環境債務をはじき出すにはER(エンジニアリング・レポート)だけでは不十分で、有害物質の処分量の確定など、より精緻な調査が必要だ。実際のコストは解体時に工事会社に詳細な見積もりを依頼することになるが、例えばそこまでは必要としない不動産投資の判断材料として、ERに基づいた意見を求められることも多い。このように将来の環境債務を把握する目的でERの需要も更に増えていくとみられる。
一方、土壌汚染については、一般的にはフェーズⅠアセスメントをクリアすれば不動産取引上の問題はない。だが、土壌汚染防止対策法改正で3000m2超の土地の形質変更については、書類提出など行政への届出が義務付けられた。行政の命令発出の当否まで最長30日を要することになり、仮に土壌汚染の可能性があれば土壌汚染調査が求められ、状況によっては対策工事も必要となる。このため届出前に自主的に調査するケースもある。手続きの煩雑さや事業の遅延リスクが昨今問題視されているのはこのためだ。
――東日本大震災で耐震性能の高さが評価されました。
中村氏 東日本大震災では新耐震基準の建築物の構造についてはほぼ軽微な損傷にとどまり、被害の多くは天井材、外壁や昇降機などの設備であった。こうした非構造部材や設備の耐震対策へと関心もシフトしつつある。
またBCP(事業継続計画)の重要性が認識され、建物の継続使用への関心も高まっている。運用中のビルに地震計を設置して計測地震による防災に取り組む事例も見受けられる。これは被災度判定システムなどと呼ばれ、例えば、大地震が起こったときに計測した地震の程度に応じて入居者がビルに留まれるか、ビル外に避難するべきかの判断に役立てる使い方があり、今後、テナントに対する付加価値付けとなってくるだろう。
――運用目線で不動産の環境性能を評価するCASBEE不動産マーケット普及版がリリースされ、認証の先行取得も始まりました。
中村氏 CASBEE不動産マーケット普及版の1項目に採用された地震などの「自然災害対策」は注目だ。災害時の帰宅困難者対策と共に情報のシャットダウンなどビジネスを途絶させない、いわゆるBCP対応が不動産についても求められているからだ。
このマーケット普及版の「自然災害対策」では、既に公表されているハザードマップを活用して、対象地の水害、液状化、津波、地震動といった幅広いリスク情報を評価に反映できるようになっている。やや専門的であるが、普及版のリリースに先だって既に不動産の売買仲介の現場では、災害ハザードマップ情報の活用が一部で始まっている。今後、不動産のリスク評価の欠かせないポイントとなってくるだろう。
これまでネガティブ要因とされてきた土壌汚染やアスベストといった環境リスクについては、法規制とともに国民理解もある程度進んできた。そのリスク評価という役割を果たしてきたERをベースに、長期的な電力需給の問題を抱える今後は、「環境と不動産」としての視点も省エネや省CO2というエネルギー対策へと移っていくだろう。
環境と不動産の関連性は、ネガティブからポジティブまで非常に広い分野にまたがっているが、ERが担ってきたリスクの定量化が、環境不動産の土台を築いてきたことは間違いない。それを踏まえて、環境に対応する一歩進んだ取り組みや改善が、付加価値の高い魅力ある不動産へとつながっていくことと大いに期待している。 (終わり)
なかむら・なおき=90年より応用地質(株)で大手メーカー、米軍施設等の土壌・地下水汚染に係る調査・浄化対策プロジェクトに携わる。00年より不動産証券化市場へのエンジニアリングレポートの提供、技術コンサルタントとして活動しながら、不動産証券化協会、ロングライフビル推進協会(BELCA)、土壌環境センター等で環境リスクに関する教育・啓発活動を行う。技術士(環境部門、建設部門)、不動産証券化マスター。





















