相続税にかかる遺言執行者(遺産分割協議書のアドバイザー)の体験談 不動産鑑定士・税理士横須賀博(16) その15 遺言書より家族会議による幸せの共有
住宅新報 2012年11月6日 号 5面
連載: 相続・遺言執行者の体験談
予兆を心得て事前対策を
相続時の相続人間の紛争を防止するためにと、公正証書遺言や秘密証書遺言を生前に作成しておく必要性が最近特に話題となっている。これは、「兄弟は他人の始まり」という、昔からの経験を踏まえてのアドバイスと思われる。しかし、私が描く「あるべき相続対策」とはそれらとは異なり、家庭的な相続対策である。
どこの家族でも盆や暮れには家族が一堂に会し、健康を確認し環境の変化を話し合う、いわば議題のない家族会議は毎年の行事とされている。
そんな毎年の行事も、回を重ねるごとに、ふと、この幸せがいつまで続くのか、と思うときがある。一定の年齢を重ねれば、この世を去るという厳然たる摂理が頭に響き、その摂理がやがて自然に自分の体をゆさぶってくれる。
「若かりしあの日、家族と共に山や海に戯れたとき、泣き、笑ったあの日あの時…山登りの途中で雨が降り、風が吹き、泣き叫ぶわが子を抱きながらわが家にたどりついたことなど」。そんな思い出にふけった時こそ、自分の身に相続問題が発生したときの事前の対策を議題にした家族会議の必要性を知らせる予兆と心得るべきなのである。
具体的には相続財産の種類と金額の開示をし、第一に残される配偶者への十分な配慮をし、第二に相続人の特技を生かした分割方法についての基本的な取り決めなどを話し合っておくことが生前の相続対策である。
その後、現実に相続が発生した場合には、生前に話し合った財産の増減の修正や、相続税の申告納税に当たっての税法の取り扱いに伴う修正等を行う必要はあるが、それらも基本的な分割方針が示されていれば、残された家族一同の合意の下に正式な遺産分割協議書を取りまとめることができる。
こんな相続の仕方が紛争もなく、相続後の兄弟間の付き合いも楽しく、共に助けあいが続けられるというもの。そんな土台を作っておくことが、あるべき相続対策であり、話し合いのなされない公正証書遺言や秘密証書遺言は、かえって紛争を招く場合があることに注意が必要である。このように実践的な遺産分割は、家族間の話し合いが基本と心得るのだが…。
もっとも、世の中には本人の責めに帰せざる災難に遭遇する家族もあり、家族間の状況を画一的に見ることはできないが、そんな事案こそ、相続人間の愛の力が発揮される機会ととらえるべきであろう。
すなわち、不運にも事故に遭遇した相続人の生活を思いやる、あるいは生まれながらに障害を抱える相続人を思いやる。そのような配慮をせずに自分自身の幸せを求めようとしても、そんな幸せはこの世には存在しないと思うからである。
(よこすか・ひろし=横須賀不動産鑑定事務所代表取締役)























