点検 不動産投資 宮城大学事業構想学部教授 田辺信之 第6回賃貸オフィスビル市場《総括》 求められる都市戦略 市況底打ちでは共通認識
住宅新報 2012年5月29日 号 3面
連載: 点検 不動産投資
前回までに、賃貸オフィスビル市場の動向について、多面的な観点からマーケットの第一線で活躍される方々のご認識をうかがってきました。今回は、これらの新たな知見を加えて、改めてオフィスビル市況の現状と見通しについて整理します。
東京のオフィスビル市況は、景気回復を背景に既に底打ちし、改善に向かいつつあるという点では、全員の認識が共通していました。但し、その指標となる空室率の改善をどう評価するかについては、若干、温度差があります。オフィスビルの大量供給にもかかわらず、今年前半の空室率がほぼ横ばいなので、賃料も年内には上昇に向かうという意見がある一方で、空室率が低下しているといっても、それは賃料引き下げやフリーレントの活用などによるものであり、実質的な賃料が上昇に転じるにはもう少し時間を要するという意見も聞かれました。
賃料格差縮小で〝玉突き〟
筆者は本稿以外でも何人かの有識者にヒアリングしていますが、実際にオフィス運用に携わっている方は、後者の認識に近い場合が多いようです。とはいえ、既存テナントによる増床案件も増えてきていますし、賃料改定も横ばいとなる比率が上昇してきています。その意味で、市況は底打ちしつつあるという基本認識に違いはなく、スピード感の違いであると言ってよいでしょう。
また、中規模ビル(新耐震など一定以上のグレードのもの)は大型ビルとは異なる市場特性||賃料の振れが小さい、賃料負担力に応じたテナント構成など||を持つのですが、中規模ビルの市況回復にはやはり大型ビルの回復が前提となりそうです。賃料水準には違いがあるものの、200坪を超えるようなテナントになってくると両者間で競合が発生することや、市況情報がテナントにも広く普及するようになったことなどがその要因です。大規模ビルの賃料低下によって、中規模ビルの賃料との乖(かい)離幅が縮小してきたことから、以前よりも玉突き現象(中規模ビルから大規模ビルへの移転)が起きやすくなっていることも影響しています。
住宅・ビルは一部賃料逆転も
オフィスビルとレジデンシャル(賃貸住宅)との賃料逆転という話も、多くの方から聞かれました。もちろん地域差がありますが、オフィスビル賃料が月坪1万円前後まで低下してくると、住宅の賃料の方が高くなるケースが見られます。その場合、新耐震のビルであれば住宅へのコンバージョン、旧耐震であれば、将来的な住宅への建て替えという選択肢が生まれます。こうした動きを、オフィスビルの供給増加、ビル間競争激化に伴う市場の構造的な変化と捉えるのか、市況低迷期の一時的な現象と見るのか、もう少し時間をかけて傾向を注視していく必要がありそうです。
オフィスビルの質の面では、東日本大震災後は言うまでもなく耐震性が重視されるようになりました。また、節電、CO2対応などの環境面での対応にも注目が集まるようになっています。実際に、節電対応などはかなり進んでおり、テナントへのメリット還元なども実施されています。しかし、専用部の節電、CO2削減などに関しては、相応の設備投資を要するものの、それを賃料に反映するのはまだ難しいようです。
市場の中長期的な見通しに関しては、人口や業務機能の集中が続いている東京では、需要面の心配をする状況にはないものの、地方(一部の中核都市以外)では需給バランスが厳しくなるとする意見が多数を占めました。東京は、多様な業種の本社が集中していること、GDPや消費市場の圧倒的な大きさなどから、グローバルに見ても一定の競争力を維持し続けると考えられます。しかし、アジアにおける拠点性という点では、香港、シンガポールなどに比べて劣勢にあるようです。
80年代後半、これからの世界は、ニューヨーク、ロンドン、東京の3極体制になる」と言われていました。今では残念ながら少し後退した感がありますが、オフィスビル市場の将来を考えると改めて国家としての都市戦略を早急に講じるべきだと言えるでしょう。(この項おわり。インタビューは住宅新報社と共同取材)





















