不動産取引現場での意外な誤解 賃貸編243 建物賃貸借契約で手付の交付は必要なのか?
住宅新報 2025年10月28日 号 11面
連載: 不動産取引現場での意外な誤解

Q.前回(第242回)、やはり建物賃貸借契約では「契約書の持ち回り」による契約締結方法には問題があると思いました。
A.確かに問題がないとは言えません。しかし、かと言って慣行的に行われている契約方法をやめるべきだというところまで問題があるとは思っていません。
契約の締結を急ぐ借主等が前払い賃料等を「手付金」として支払う点が問題なので、いかに契約の締結を急ぐ場合も、そのような問題が生じるおそれのある「手付の交付」だけはやめるべきということです。
Q.建物賃貸借契約ではいかなるときも「手付の交付」はやめるべきでしょうか。
A.そうではなく、「契約書の持ち回り」で契約を締結する場合にはやめるべきということです。建物賃貸借契約とは、売買契約のように契約の締結から残金決済・物件の引渡しまでに時間がかかるといった契約ではないので、いかに契約の締結を急ぐといっても、貸主が借主の署名押印した契約書に署(記)名押印するまでの間のことですから、そのわずか数日程度のことで、その間に賃貸借契約とは別個の「手付契約」を締結する必要性はほとんどないと思うからです。
Q.しかし、手付を交付すれば契約の成立は確たるものになるのではありませんか。
A.その通りです。しかし、以前の賃貸編(第240回・第241回)でも、建物賃貸借契約に「手付の交付」までは必要ないといったのは、要は、建物賃貸借契約の場合には、契約の当事者が、その締結についての最終的な意思を確定するのは、契約書に署名押印をしたときであるというほぼ定着した判例理論が前提にあるからです。
したがって、建物賃貸借契約のすべての契約について手付の交付を否定するものでありませんが、少なくとも一般的な住宅賃貸の契約においては、「契約書の持ち回り」で契約を締結するという方法をとる限り、手付の交付までは必要ないと申し上げているのです。なぜならば、商業用ビルなどの建物賃貸借契約においては、建物の建築から完成までにかなりの時間がかかるために、その間に賃貸借契約の予約をしたり、そのための手付を交付した上で、具体的に詰めていくということが実際に行われているからです。
渡邊不動産取引法実務研究所 代表 渡邊 秀男






















