紙上ブログ 不動産屋の独り言 790 賃貸現場の喜怒哀楽 坂口有吉 明日は我が身か、身につまされる話 訪問者からまさかのお願い
住宅新報 2025年2月18日 号 6面

店番をしていたらドアが開く気配。ふと見ると、高齢男性が立っていた。年齢からして生活保護のお客さんかなと思って、「いらっしゃいませ」と言うと、返答はなく、椅子に座ってバッグの中をごそごそと探し始めた。待っていると、フランクフルトソーセージくらいの大きさの機器を取り出し、頬の下に当て話し始めた。喉頭がんで声を失い、その器具を使用している。こちらはどうにか声が聞き取れる。耳は大丈夫なので筆談にはならないから面倒な部屋探しにはならないかと思っていたら、違う目的だった。
現在の状況を記したプリントを私に渡す。訪問目的は「こちらのお店で私を雇って頂けないか」とのこと。年齢は4月で84歳。宅建士の資格も持っているが、声を失ったことで、それまで勤めていた不動産会社をクビになったという。
生活のために
そんな年齢までなぜ働かなければならないかといえば、奥さんがいて、年金も月額14万円もらっているが、夫婦二人が食べていくのがキツイらしい。週に2~3日働いて、月に5~7万円の収入になればとのことだ。宅建士の資格を持たない不動産会社で、掛け持ちで勤務していたようだが、いくら宅建士が必要とはいえ、その年齢まで雇ってくれたのだから文句は言えないだろう。「忙しい時は毎日でも働きますし、暇な時は週2日くらいでも構いません。車の運転もまだ可能です」と言う。そうは言っても、道路の逆走や、アクセルとブレーキを踏み間違えて事故でも起こされたら困る。案内だけなら宅建士の資格を持たない社員がすればいい。
知り合いの会社で
そこで、ふと考えた。うちの支部の会員業者の社長が最近亡くなって、宅建士がいなくなった不動産会社がある。社員が一人宅建士を持っているが、やはり高齢で体調がすぐれず、近く退職することになっていた。そうなると宅建士がいなくなるので、もうしばらく働いてもらうことになりそう。亡くなった社長には娘さんがいて後を継ぐことになるが、不動産業の経験がなく、宅建士は持っていない。娘さんが宅建士の資格を得るまで働いてもらうのは良いかも、と思い、宅建士の資格を持つ従業員に話したら賛同してくれた。話が進んでくれたらうれしく思う。 (坂口有吉不動産・社長)






















