知って得する建物の豆知識(72) 釿と鉋 大工の命
住宅新報 2011年10月18日 号 4面
なにやら難しい漢字の読み取り試験のようですが「釿」は「ちょうな」、「鉋」は「かんな」と読みます。釿とは日本独特の大工道具で、丸太から柱や梁を切り出すのに使います。
2000年の歴史、儀式にも登場
「ちょうな」を変換すると「手斧」と出ますが、一般的なイメージの手斧は大工道具では「よぎ」「たづき」と言います。釿はケヤキなど粘りのある樹木を煮てU字型に曲げ、蔦(つた)などで縛り形を固定化し、その片方の先端に平刃の刃物を取り付けた構造になっています。要するに鋭利な刃物の付いたクワのようなもので、最も危険な大工道具です。
作業は大きな丸太の上に職人が乗り、釿を叩きつけるようにして表面を削っていきます。丸太を整えるのは伐採した次の工程で、加工は山中で行われたことから、この一次加工をする職人を「杣屋(そまや)」と呼びました。職人は山中に小屋掛けして作業しましたので、小屋掛けそのものを「杣屋」と言うことがあります。謙遜して言う言葉に「杣屋の侘び住まいですから」という表現がありますが、ここに由来しているわけです。
古墳時代の出土品に釿のような鉄器を見ることができ、静岡県の登呂遺跡にはその痕跡があります。中世になると、木材の仕上げにも使われるようになります。当時は鉋が無かったため、平滑面や板の仕上げにも利用されました。
また、釿は古い大工道具であることから儀式にも使われます。釿始(ちょうなはじめ)という、新築時や年始に行われる儀式では、曲尺と墨で儀式用材に印をつけ、釿で用材をはつるという作業を行い、これを神前に奉奠ほうてんしていました。釿仕上げという言葉がありますが、木材の表面を小さくえぐった仕上げは独特の質感があり、現在でも茶室や数寄屋建築に使われます。
鉋仕上げで腕が分かる
室町以前の時代、釿の精度では平滑性が得られない場合に槍鉋という道具が使われました。槍鉋は柄のついた短い刀のような構造で、突くようにして木材の表面を薄く削ぎ取り、平面性を得ていました。室町以降になると台鉋の原型が中国から渡来し、より平滑な面が加工できるようになりました。
現在大工が使っている、台板の中に二枚の刃物を仕込んだ鉋を台鉋と言います。台鉋は明治になってから西欧の建築技術と共に輸入されたものですが、ヨーロッパや中国では鉋を押して削るのに対し、日本の鉋だけが手前に引いて削ります。ノコギリも日本以外では押して切ります。他にもヤスリがけや蹴りロクロなど、日本だけが反対の動作をする道具は少なくありません。理由は謎ですが、日本人のDNAに関係しているという説もあります。
鉋はノコギリやノミに次いで大工の大切な道具で、す。鉋仕上げの良し悪しは大工の腕に直結していたため、武士が刀剣に凝るように、大工も使う鉋の刃にはことさら神経を注いだようで、銘品はコレクターズアイテムになっています。
(建築家・中村 義平二)






















