紙上ブログ 不動産屋の独り言 329 賃貸現場の喜怒哀楽 坂口有吉 家に戻れなくなった老婦人とのその後 元気を提供できれば、一番
住宅新報 2015年12月1日 号 7面
以前にご紹介した「散歩に出たら帰り道が分からなくなってしまった老婦人」とのその後の話。何度か道でバッタリ会っていて、その度にあいさつして声を掛けるのだが、どうも私のことは全く覚えていないようだった。なのでその度に「初めて会ったかのようなあいさつ」をしていたのだが、最近はようやく覚えてくれたみたい。向こうからやってきて私に気付くと、老婦人のほうから笑顔であいさつしてくれるようになったのだ。
声掛けの理由
それくらいなら、そして道に迷っていそうでないなら、特に声を掛けずに知らん顔をしていてもよさそうなものだが、声を掛けるには私なりの理由がある。
年をとって、家族と離れて老人ホームの個室に入っていて、友人も1人ずつ欠けていって、話し相手と言えば介護職員くらい、というのは寂しいものと、私は思っているからである。何かの事情があって有料老人ホームに入っているのだろうが、そういうホームに入れる人は経済的に恵まれているとしても、自分のことを気にかけてくれる人がホームの職員だけになったなら、正直、お迎えを待っているだけになるのではなかろうか。私ならそういう孤独感には耐えられないと思う。だから、姿を見かける度に声を掛けるようにしていて、それは不動産業の仕事とは全く関係ないこと。社会への恩返し、と言える。
若い男!?
老婦人に驚きの変化が見られたのは数カ月前のこと。同じホームの老婦人4人で散歩をしていたようだが、私を見つけると笑顔で寄ってきた。どうやら付き添いはいないようである。たぶん、グループで散歩するなら大丈夫、との施設の判断であろう。その老婦人が私にあいさつをしていると、他の仲間が老婦人を冷やかす。「あんた、なんでこんな若い男の人を知ってんのよ」だと。
なかなかユーモアのセンスがあるようだ。「以前、道に迷ってたときにホームまで連れてきてもらったのよ」と答えると、更に「隅におけないわね」とからかう。少し立ち話をして別れたが、きっとホームに帰ってもしばらくは私をネタに話が弾んだことだろう。そんなことでも役立ってくれるなら私も嬉しい。老婦人たちに元気を提供したいから。
(坂口有吉不動産・社長)






















