先月末、オランダのアムステルダムに、『巨大な浴槽』と呼ばれる建物が登場しました。約10年がかりの改修工事を終えた、アムステルダム市立美術館の新館です。
オランダの建築界はワイルドなデザインが特徴的ですが、この『巨大な浴槽』もその流れを汲んでいます。全長およそ100メートルの「浴槽」の表面は、3000m2の継ぎ目のない一体的なパネルで構成されており、「つやつや、華やか、真っ白」とも表現されています。
この巨大浴槽は帝人グループの現地法人テイジンアラミド(Teijinx Aramid)が提供したカーボン・コンポジット素材(以下コンポジット)で、パラ系アラミド繊維と炭素繊維が混入された樹脂でできています。現時点で、コンポジットを使用した建築物では世界最大です。これだけ巨大な単一構造物には膨大な熱変形が発生し、割れや破断が起きますが、その変形に耐えるのがコンポジットです。
F1マシンや防弾チョッキにも
今年のF1鈴鹿では、小林可夢偉選手が22年ぶりに日本人3位入賞を果たしました。このF1マシンのボディも、コンポジットの一体成形品です。コンポジットが主流になったことで衝突安全性が著しく向上し、300キロオーバーのクラッシュでもレーシングドライバーの負傷度合いが大幅に低下しています。
また防弾チョッキに使用すれば、至近距離からの拳銃弾も通さないほど強度が高いのです。コンポジットは建築材として、外装以外にも応用されています。
コンクリートは圧縮には強いのですが、引っ張りには弱い欠点があります。そこで鉄筋をコンクリートに挿入して、引っ張り強度を高めたのが鉄筋コンクリートです。この鉄筋の代わりにアラミド繊維や炭素繊維を使えば、非常に強度の高いコンクリートができそうですが、そうはいかないのです。
建築構造への利用は難
現在も繊維補強コンクリートは、道路や崖の法面(のりめん)、道路舗装などに使われていますが、建築や土木の構造物に使われるケースはほとんどありません。有機・無機繊維とも「破断伸びが小さい」という欠点があるからです。
これは、構造物の靱性(じんせい)を大きく低下させ、衝撃的な力が加わった時に破断しやすいことを意味します。カーボンなどの繊維素材は『巨大な浴槽』やF1マシンのボディのように、樹脂と一体化すれば強度を発現できますが、コンクリートのように結晶水を含むような粗い素材とでは、相当量の繊維を混入しない限り一体化は難しいとされています。
世界圧倒する日メーカー
建築構造や土木にかかわる利用法としては、躯体や橋脚などの補強としてアラミド繊維や炭素繊維で作ったシートを巻き付けるのが現実的です。
なお、コンポジットの基礎材料となる炭素繊維やアラミド繊維のシェアに関して、日本メーカーは世界を圧倒しています。
(建築家・中村 義平二)























